高校化学で学ぶ有機化学の基礎として芳香族アミンの性質があります。芳香族アミンの中で重要な化合物はアニリンのみです。つまり、アニリンの性質を覚えましょう。
芳香族化合物の中では、塩基性を示す唯一の化合物が芳香族アミンです。窒素を有する芳香族化合物がアニリンであり、アンモニアと性質が似ています。
また、アニリンを利用することで可能な合成反応がいくつか存在します。アニリンを利用することでアセチル化を行い、アミド結合を有する化合物を得られます。またジアゾ化することにより、アゾ化合物を得ることもできます。
それでは、アニリンの性質や製法には何があるのでしょうか。また、アニリンを用いた合成反応の詳細はどのようになっているのでしょうか。高校化学で学ぶアニリンの性質を解説していきます。
もくじ
アニリンは塩基性を示す唯一の芳香族化合物
窒素を含む化合物にアミンがあります。前述の通り、芳香族アミンで重要な化合物はアニリンです。以下がアニリンの構造式です。
芳香族化合物で唯一、塩基性を示す化合物が芳香族アミンです。アンモニアNH3は塩基性を示すことで知られており、アニリンについても同様に塩基性を示します。
・アニリンの判定法
ちなみに、アニリンが存在するかどうかの判定法として、さらし粉を加える方法があります。さらし粉にアニリンを加えると赤紫色になります。
または、ニクロム酸カリウムK2Cr2O7を加えることでアニリンを酸化すると、アニリンブラックと呼ばれる物質を得ることができます。アニリンブラックは染料として利用されます。アニリンの判定法は重要ではないものの、知識として知っておくといいです。
ニトロベンゼンの還元によってアニリンを得られる
それでは、アニリンを得るにはどのようにすればいいのでしょうか。アニリンはニトロベンゼンの還元によって得ることができます。
アニリンの合成では、まず硝酸を利用してベンゼンに対して置換反応を起こし、ニトロベンゼンを得る必要があります。このときは触媒として濃硫酸も利用します。
その後、還元剤であるスズSnを加え、濃塩酸による酸性条件でニトロベンゼンを還元することでアニリン塩酸塩となります。アニリン塩酸塩は水酸化ナトリウム水溶液を加え、中和することによってアニリンになります。
アニリンは弱塩基です。アニリン塩酸塩に存在するCl–は強酸由来であるため、より強い塩基と結合したいと考えています。そのため水酸化ナトリウムを加えると、Cl–はアニリンではなく、Na+とイオン結合を作ります。こうして弱塩基が遊離し、アニリンを得られるのです。
アニリンで起こる重要な合成反応
次に、アニリンを利用して起こる重要な反応を確認しましょう。アニリンは塩基性であるため、当然ながら酸と中和反応を起こします。
またアニリンは有機化合物なので水に溶けないものの、酸を加えることで塩にすると水に溶けます。芳香族化合物であっても、イオンになると水に溶ける性質があるのです。
それでは、中和反応以外にどのような反応をアニリンは起こすのでしょうか。高校化学で学ぶ有機化学の基礎では、以下の合成反応を覚えましょう。
- 無水酢酸と反応し、アセチル化によってアセトアニリド(アミド結合)を得られる
- ジアゾ化により、ジアゾニウム塩を得られる
- ジアゾカップリングにより、アゾ化合物が生成される
それぞれの内容を確認していきます。
無水酢酸と反応し、アセチル化によってアセトアニリド(アミド結合)を得られる
反応性の高い化合物に無水酢酸があります。アルコールやフェノールに無水酢酸を加えるとエステル化(アセチル化)することが知られています。
同様に、アニリンについてもアセチル化することができます。ただアニリンの場合、無水酢酸と反応した後に作られる結合はエステル結合ではありません。結合は-CONH-となり、これをアミド結合といいます。
アルコールに無水酢酸を反応させると、エステル結合だけでなく、アセチル基を有することになります。同様にアニリンと無水酢酸を反応させる場合、アミド結合とアセチル基を有することになります。
なお、アミド結合はアミノ酸にも含まれる構造であり非常に重要です。そのためアニリンと無水酢酸を反応させてアセトアニリドを得られる合成反応を学ぶとき、必ずアミド結合も覚えましょう。
ジアゾ化により、ジアゾニウム塩を得られる
ほかにも、アニリンで重要な合成反応にジアゾニウム塩の生成があります。ジアゾニウム塩を生成する合成反応をジアゾ化といいます。以下がジアゾニウム塩です。
5℃以下に保ち、アニリンに対して希塩酸と亜硝酸ナトリウム水溶液を加えると塩化ベンゼンジアゾニウムを生じます。
有機合成では、ジアゾニウム塩は非常に便利です。ジアゾ化した後、ジアゾニウム塩をハロゲン(F、Cl、Br、I)やOH、CNなど、さまざまな置換基に置き換えることができます。
そのため有機化学の研究室ではアニリンのジアゾ化を行うことがひんぱんにあります。詳細は大学の有機化学で勉強することになりますが、ジアゾ化は非常に有益な合成反応の一つです。
なお0~5℃の環境下で反応させる理由として、ジアゾニウム塩は不安定な物質であり、5℃以上になると熱によって分解してしまうからです。そのため、必ず5℃以下でジアゾ化させましょう。
ジアゾカップリングにより、アゾ化合物が生成される
次に、ジアゾニウム塩を利用することによって得られる化合物として、アゾ化合物を学びましょう。ジアゾニウム塩を利用することによって、アゾ化合物を得られるのです。
-N=N-をアゾ基といいます。また、アゾ基をもつ化合物をアゾ化合物といいます。アゾ化合物は色を有することで知られており、黄色や赤色などの色素(染料)として利用されます。アゾ化合物はアゾ色素とも呼ばれています。
例えばジアゾニウム塩にフェノールの塩(ナトリウムフェノキシド)を加えると、アゾ化合物を得られることが知られています。
この反応をジアゾカップリングといいます。2つの化合物を利用し、1つの化合物を得る合成反応をカップリング反応といいます。ジアゾカップリングはカップリング反応の一種です。
アニリンの性質とアミド結合、ジアゾ化を学ぶ
芳香族化合物の中でも芳香族アミンの性質は重要であり、特にアニリンの特徴を学びましょう。アニリンは弱塩基性であり、酸と反応することで中和反応を起こします。
アニリンの製法は難しくありません。ベンゼンに対して置換反応を起こし、ニトロベンゼンを得ます。その後、スズを利用して還元すればアニリンを得られます。
また、アニリンで重要な反応に無水酢酸とのアセチル化があります。アセチル化により、アミド結合を得られます。ジアゾ化も重要であり、5℃以下で反応させることでジアゾニウム塩を得られます。またジアゾ化をした後、ジアゾカップリングによってアゾ化合物の合成が可能です。
窒素を有する芳香族化合物は非常に多いです。そこでアニリンの性質を覚え、どのような合成反応を起こすのか理解しましょう。