高校化学で学ぶ芳香族化合物の中でも、重要な化合物に芳香族カルボン酸があります。つまり、ベンゼン環上にカルボン酸をもつ化合物になります。

炭素鎖にカルボン酸がある場合とベンゼン環上にカルボン酸がある場合については、同じ性質を示します。そのためカルボキシ基(カルボン酸)の性質を理解している場合、芳香族カルボン酸の特徴を学ぶのは簡単です。

なお芳香族カルボン酸では、有名な化合物に安息香酸やフタル酸、テレフタル酸、サリチル酸、アセチルサリチル酸、サリチル酸メチルがあります。これらはすべて重要な化合物であるため、どのような特徴があるのか覚えましょう。

それでは、芳香族カルボン酸にはどのような性質があるのでしょうか。ベンゼン環上にカルボン酸を有する化合物の特徴を解説していきます。

芳香族カルボン酸の種類と性質:酸性を示す

芳香族カルボン酸では、ベンゼン環にカルボン酸が結合しています。以下の化合物は芳香族カルボン酸に該当します。

これらは芳香族カルボン酸の中でも重要な化合物です。

前述のように、炭化水素に結合しているカルボン酸とベンゼン環上のカルボン酸は性質が同じです。ベンゼン環上にカルボキシ基(カルボン酸)が存在する場合、酸性を示します。そのため塩基と反応することによって中和反応を起こします。

カルボキシ基はアルコールとエステル結合を作る

また、ベンゼン環上のカルボキシ基はアルコールとエステル結合を作ります。カルボン酸とアルコールを利用してエステル化できることは既に理解していると思います。この性質は芳香族カルボン酸でも同様です。

なお、酸性条件または塩基性条件によって加水分解することによってエステル結合を切断し、カルボン酸とアルコールへ戻すこともできます。

エステルの性質を学んでいる場合、芳香族カルボン酸とアルコールを用いてエステル化が可能なことを理解するのは容易です。

芳香族炭化水素の酸化によって芳香族カルボン酸を得る

それでは、芳香族カルボン酸を得るにはどのようにすればいいのでしょうか。多くの場合、芳香族炭化水素を酸化することによって芳香族カルボン酸を得ることができます。

芳香族炭化水素を酸化する場合、末端の炭素原子がカルボン酸に変わるわけではありません。そうではなく、ベンゼン環に直接結合している炭素原子を起点としてカルボン酸となります。以下のようになります。

芳香族炭化水素の酸化反応では、ベンゼン環に直接結合している炭素原子がカルボン酸になると理解しましょう。

また2つのカルボキシ基を有する芳香族カルボン酸を合成したい場合、ベンゼン環上に2つのアルキル鎖をもつ芳香族炭化水素を酸化しましょう。以下のようになります。

ナフタレンについては、「一つのベンゼン環上に結合している炭素が二つ存在する」とみなします。そのため、酸化反応によってナフタレンからフタル酸を得ることができます。

重要な芳香族カルボン酸の種類と性質

ここまで、芳香族カルボン酸の一般的な特徴を解説してきました。それでは、有名な芳香族カルボン酸にはどのような種類があるのでしょうか。また、それぞれの芳香族カルボン酸の性質には何があるのでしょうか。

高校化学で学ぶ重要な芳香族カルボン酸には以下があります。

  • 安息香酸
  • フタル酸
  • テレフタル酸
  • サリチル酸
  • アセチルサリチル酸
  • サリチル酸メチル

種類は多いですが、すべて重要な化合物です。そのため、それぞれの化合物の性質を必ず覚えましょう。

安息香酸は酸性を示し、トルエンの酸化で得られる

芳香族化合物の中でも、最も単純な構造をしている化合物が安息香酸です。

安息香酸に特徴的な性質ななく、芳香族カルボン酸の性質が安息香酸の性質です。つまり、以下が安息香酸の性質です。

  • 酸性を示す
  • アルコールと反応し、エステル結合を作る
  • トルエンの酸化によって安息香酸を得られる

そこで、まずはこれら基本的な性質を覚えましょう。

フタル酸は分子内縮合を起こし、無水フタル酸になる

カルボキシ基のオルト位に対して、もう一つカルボキシ基が存在する化合物がフタル酸です。フタル酸では、2つのカルボキシ基があります。

フタル酸は酸性を示し、アルコールと反応することによってエステル結合を作ります。また、o-キシレンやナフタレンを酸化することによってフタル酸を得ることができます。

それでは、フタル酸に特徴的な性質は何があるのでしょうか。フタル酸は2つのカルボキシ基が近くに存在するため、加熱によって分子内脱水反応を起こすことができます。

分子内脱水によって生成する化合物を無水フタル酸といいます。

フタル酸の構造異性体には、イソフタル酸とテレフタル酸があります。それぞれの構造式は以下のようになります。

イソフタル酸とテレフタル酸はカルボキシ基がそれぞれ離れて存在するため、分子内脱水反応を起こすことはできません。分子内脱水を起こすのはフタル酸のみです。

縮合重合により、テレフタル酸はポリエステルになる

次にテレフタル酸の性質を確認しましょう。2つのカルボキシ基がパラ位に存在する場合、テレフタル酸になります。

テレフタル酸には、これまで解説した芳香族カルボン酸の性質があります。つまりテレフタル酸は酸性であり、アルコールとエステル結合を作ります。また、p-キシレンを酸化することでテレフタル酸を得ることができます。

前述の通り、テレフタル酸は分子内脱水をしません。ただテレフタル酸では、多くの分子が結合することで重合反応を起こすことができます。テレフタル酸は縮合重合によってポリエステルになるのです。

例えばテレフタル酸はエチレングリコールと縮合重合を起こし、ポリエチレンテレフタラートになります。

縮合重合を起こすのがテレフタル酸に特徴的な性質です。

サリチル酸の性質と炭酸水素ナトリウムとの中和反応

カルボキシ基を有する化合物にはサリチル酸もあります。ベンゼン環上に-OHと-COOHをもつ化合物がサリチル酸です。

-OHと-COOHをもつため、サリチル酸はフェノールと安息香酸の両方の性質をもちます。フェノールでは、塩化鉄(Ⅲ)水溶液を加えることによって青紫~赤紫色になることが知られています。そのためサリチル酸に塩化鉄(Ⅲ)水溶液を加えると青紫~赤紫色になります。

またベンゼン環上に存在する-OHとCOOHは両方とも酸性を示します。そのため水酸化ナトリウムと反応させると、-OHは-ONaとなり、-COOHは-COONaとなります。

・炭酸水素ナトリウムとサリチル酸の中和反応

サリチル酸の中和反応で理解するべきは、炭酸水素ナトリウムとの中和反応です。サリチル酸に対して炭酸水素ナトリウム水溶液を加えるとき、どのような中和反応が起こるのか理解しましょう。

酸性の強さは以下のようになっています。

  • HCl, H2SO4 > R-COOH > H2CO3 > フェノール

Na+は強塩基に由来するため、より強い酸と結合したいと考えています。炭酸水素ナトリウム水溶液には、Na+とHCO3が存在します。炭酸H2CO3とカルボン酸COOHを比べると、カルボン酸のほうが酸性は強いです。そのためNa+はHCO3ではなく、カルボン酸と塩を作ります。

一方、炭酸H2CO3とフェノールを比べると、炭酸のほうが酸性が強いです。そのためNa+はフェノールと塩を作りません。そのためサリチル酸に炭酸水素ナトリウムを加えると以下のイオンになります。

カルボン酸や炭酸、フェノールの酸性の強さを覚えましょう。そうすれば、溶液中にNa+が存在するとき、どのような塩を作るのか理解できます。

サリチル酸からアセチルサリチル酸(消炎鎮痛剤)を合成できる

なお、サリチル酸は消炎鎮痛剤として有名です。ただサリチル酸を服用すると、胃潰瘍などの副作用が強く表れます。そこでサリチル酸の副作用を軽減した医薬品としてアセチルサリチル酸(一般名:アスピリン)が開発されました。

アセチルサリチル酸(アスピリン)は現在でも多くの人に処方されており、解熱鎮痛剤や抗血小板作用を期待して利用されています。

サリチル酸に対して、無水酢酸を加えるとアセチルサリチル酸を合成できます。フェノールは酸無水物と反応し、エステル結合を作る性質があります。そのためサリチル酸と無水酢酸が反応すると、エステル化(アセチル化)が進むのです。

エステル化の中でも、無水酢酸とアルコール(またはフェノール)を反応させる場合をアセチル化といいます。アセチル基を有するため、アスピリンの正式名称はアセチルサリチル酸です。

サリチル酸はメタノールと反応し、サリチル酸メチルとなる

またサリチル酸を原料として、サリチル酸メチルの合成も可能です。アセチルサリチル酸と同様に、サリチル酸メチルも消炎鎮痛剤として利用されます。

アセチルサリチル酸(アスピリン)は飲み薬として利用されます。一方、サリチル酸メチルは湿布薬に含まれます。同じ消炎鎮痛剤ではあるものの、アセチルサリチル酸とサリチル酸メチルは利用用途が異なります。

サリチル酸に対してメタノールを加え、濃硫酸を利用して脱水・縮合反応を起こすとエステル結合を作ることができます。

アセチルサリチル酸を合成するとき、フェノールと酸無水物(無水酢酸)を反応させました。一方でサリチル酸メチルの合成では、カルボン酸とアルコール(メタノール)を反応させます。

サリチル酸の合成反応では、-OHが反応するケースと-COOHが反応するケースがあります。両方とも重要な合成反応なので区別できるようにしましょう。

芳香族カルボン酸の性質と化合物の種類を理解する

高校化学で有機化学の基礎を学ぶとき、カルボン酸の性質を理解しているのであれば、芳香族カルボン酸の特徴を覚えるのは簡単です。ベンゼン環上のカルボン酸は、炭化水素に結合しているカルボン酸と同じ性質を示します。

ただ芳香族カルボン酸には、重要な化合物が複数あります。そこで、それぞれの芳香族カルボン酸の種類と名称を覚えましょう。重要な化合物には安息香酸、フタル酸、テレフタル酸、サリチル酸、アセチルサリチル酸、サリチル酸メチルがあります。

また、それぞれの化合物は独自の特徴をもちます。例えばフタル酸は分子内脱水を起こします。テレフタル酸は縮合重合を起こします。また、サリチル酸からアセチルサリチル酸やサリチル酸メチルを合成できます。これらの特徴を学びましょう。

芳香族カルボン酸の性質を理解するのは簡単であるものの、芳香族カルボン酸には重要な化合物が複数あります。そこで、これらの化合物の性質を整理して理解しましょう。