化学では水銀柱の高さに関する問題を解かなければいけないことがあります。水銀を用いた実験というのは、人類が初めて真空を作った方法でも有名です。

水銀を利用すると真空を作ることができ、水銀柱の高さは決まっています。水銀柱の高さは必ず740mm(74cm)となり、この理由として大気圧が関係しています。水銀の重さと大気圧が釣り合っているのです。

この性質を理解すれば、なぜ水をポンプでくみ上げるとき、10.3m以上の高さでは水をくみ上げることができないのか理解できます。化学というのは、世の中の自然現象の謎を解き明かすことができるのです。

それでは、水銀柱はどのように大気圧と釣り合い、真空を作るのでしょうか。ここでは、水銀柱と大気圧の関係を解説していきます。

トリチュリの真空により、真空が証明された

真空が存在するかどうかについて、古代ギリシャ時代から議論が交わされていました。当時、アリストテレスは「自然は真空を嫌う」と考え、真空を否定しました。

その後、1643年にトリチュリは水銀を利用して真空を作ることに成功しました。彼は1mと長い試験管を利用し、試験管の中を水銀で満たしました。水銀は液体金属であるため、試験管から空気を完全に排除することができます。

その後、彼は空気が入らないように試験管を逆さにしました。そうすると、水槽の液面から760mm(76cm)の位置で水銀が止まることを発見しました。

空気が存在していない状態であったものの、試験管を逆さにすることによって試験管の中に何も存在しない場所が生まれました。こうして、空気を含め何も存在しない真空が存在すると証明されたのです。これがトリチュリの真空です。

水銀の重さと大気圧による力が釣り合っている

それでは、なぜ真空を作ることができるのでしょうか。また、なぜ水銀の高さが760mmになるのでしょうか。

水銀は金属であるため重いです。そのため重力による影響により、水銀は下に落ちようとします。ただ、私たちが生活している場所には大気圧が存在します。空気による圧力により、水槽の表面にある水銀が押されるのです。

そのため「重力によって水銀が下に落ちようとする力」と「大気圧によって水銀が試験管の中へ押し戻される力」が釣り合います。この場所がたまたま水槽の表面から760mmの位置だったというわけです。

大気圧は一定です。そのため760mmよりも高い位置では、大気圧によって水銀が押されることはありません。その結果、真空を生じるというわけです。

試験管を大きくしても水銀柱の高さは760mm

なお試験管を大きくしても水銀柱の高さは760mmで一定です。試験管を大きくすると、試験管内に存在する水銀の量は多くなります。つまり、その分だけ重くなります。しかし、水銀柱の高さは変わらないのです。

この理由として、圧力(大気圧を含む)は単位面積あたりにかかるからです。試験管の直径が大きくなり、試験管の中に多くの水銀が存在したとしても、大気圧によって押し戻される力(単位面積あたりの圧力)は同じです。

試験管の直径が増えて面積が2倍になっても、大気圧による力も2倍になるのです。これが、水銀柱の高さが常に760mmになる理由です。

・大気圧の力を計算する

参考までに、試験管の液面の面積を1cm2とすると、水銀柱の高さは76cm(760mm)なので、水銀柱の体積は76cm3であるとわかります。また水銀の密度は13.6g/cm3であるため、重力の影響によって水銀が下に押す力は1cm2あたり1033.6gとなります。

\(76×13.6=1033.6g\)

物理では、1kgの物体が重力によって下に加える力が9.8Nであると習います。それでは、1033.6g(1033.6×10-3kg)の水銀が下に加えている力はいくらでしょうか。9.8N/kgを利用して、以下のように計算しましょう。

\(1033.6×10^{-3}×9.8≒10.1\)

こうして、重力によって水銀は10.1N/cm2の力で下に押しているとわかります。また重要なのは、10.1N/cm2と大気圧が同じ値であることです。そこで、10.1N/cm2の単位を以下のように変換しましょう。

  • 10.1N/cm2 = 1.01×105N/m2 = 1.01×105Pa

こうして、大気圧である1.01×105Paを得ることができました。計算によっても、水銀の重さと大気圧が釣り合っていることがわかります。

水銀柱を利用する問題を解く

それでは、水銀柱を利用している計算問題を解いてみましょう。以下の問題の答えは何でしょうか。

  • 試験管に水銀を満たし、逆さにすると760mmの水銀柱と真空の部分ができました。真空部分に気体を入れると、水銀柱の高さは400mmになりました。試験管に入れた気体の圧力は何mmHgでしょうか。

水銀柱の高さが低くなった理由は、試験管に入れた気体の圧力による影響があるからです。試験管内に存在する気体が水銀を下に押すことにより、水銀柱の高さは低くなります。つまり、以下のようになります。

  • 大気圧 = 水銀の重さ + 気体の圧力

大気圧は760mmHgです。また水銀の高さは400mmなので、圧力は400mmHgです。そのため、試験管に入れた気体の圧力は360mmHgです。

水銀柱の代わりに水を利用するとどうなるのか

それでは水銀ではなく、水を利用する場合はどうなるのでしょうか。水は水銀よりも密度が低く、軽いです。そのため水銀に比べて、水は高い位置まで試験管を立てることができます。

このとき、以下の問題の答えは何でしょうか。

  • 水銀の密度は水の13.6倍です。水銀柱ではなく水柱を作るとき、水柱は最大でいくらの高さになるでしょうか。有効数字3ケタで答えましょう。

前述の通り、水銀では76cmの水銀柱を作ることができます。大気圧は同じであるため、水銀柱76cmと同じ重さの水になるためには、密度を利用して計算しましょう。以下のようになります。

\(76×13.6=1033.6\)

こうして1033.6cm(≒10.336m)となり、10.3mが答えであるとわかります。また水の重さは1cm3あたり1gです。そのため試験管の面積が1cm2の場合、高さ1033.6cmの水の重さは1033.6gになります。これは、先ほど計算した水銀柱の重さ1033.6g/cm2と同じです。

つまり水が高さ10.3mのとき、大気圧と水柱が下に押す力は同じになります。

なおポンプを使って水をくみ上げるとき、どれだけ強力なポンプを利用したとしても、10.3m以上に水をくみ上げることができないと経験的にわかっています。この理由は大気圧が存在するからです。ポンプを利用して水をくみ上げるとき、たとえ上部を真空にしても、水は10.3mよりも上に行かないのです。

それでは、10.3mよりも高い場所に水をくみ上げるにはどうすればいいのでしょうか。10.3mよりも上に水をくみ上げるためには、大気圧よりも高い圧力によって下から上に押し上げる必要があります。

水銀柱の高さを利用する問題を解く

物理や化学では気体の状態を学びます。このとき、水銀柱の高さを習います。通常の大気圧で実験する場合、水銀柱の高さは必ず760mmになります。

水銀柱の高さが760mmで一定なのは、大気圧が一定だからです。圧力は単位面積で考えるため、たとえ水銀柱の体積が大きかったとしても、水銀柱の高さに変化はありません。

また水銀柱の高さを理解すれば、なぜ水をポンプでくみ上げるときに10.3mよりも上にくみ上げることができないのかわかります。下から上に大気圧よりも強い力を加えない限り、水は10.3mよりも上に行かないのです。

トリチュリによって真空が発見されたことにより、自然現象の多くを説明できるようになりました。水銀柱と大気圧の関係を利用することによって、「なぜ水が10.3mよりも上にくみ上げることができないのか」を含め、さまざまな疑問を解決することができるのです。