特殊な機能をもつ高分子化合物を機能性高分子といいます。合成繊維や合成樹脂、合成ゴムは機能をもっています。ただ、より高度な機能をもつ合成高分子化合物が存在するのです。
高校化学など、化学の基礎で理解するべき機能性高分子はイオン交換樹脂、高吸水性高分子、生分解性高分子です。自然界に存在する化合物ではなく、人間が化合物をデザインすることによって研究開発されたポリマーが機能性高分子です。
また機能性高分子はあらゆる日常場面で利用されており、スーパーで手軽に購入できる日用品にも応用されています。そのため化学で重要な分野であると同時に、私たちにとって身近な学問でもあります。
それでは、機能性高分子の特徴には何があるのでしょうか。また、どのような仕組みで特殊な機能を発揮しているのでしょうか。機能性高分子の性質を解説していきます。
もくじ
機能性高分子の種類:イオン交換樹脂、高吸水性高分子、生分解性高分子
多くの企業が機能性高分子を開発しており、その種類は多いです。その中でも、高校化学など機能性高分子の基礎で学ぶべき高分子化合物は以下になります。
- イオン交換樹脂
- 高吸水性高分子
- 生分解性高分子
これらの機能性高分子は私たちが日々の生活で毎日のように利用している製品でもあります。また機能性高分子によって海水を真水に変えたり、砂漠化問題の解決ができたりします。ゴミ処理の問題解決にもつながります。
そこで、それぞれの機能性高分子の性質を確認していきましょう。
イオン交換樹脂:樹脂のイオンと水溶液中のイオンを交換する
イオン交換樹脂には、特定のイオンが結合しています。そこで樹脂のイオンと水溶液中のイオンを交換する樹脂がイオン交換樹脂です。
イオン交換樹脂には、以下の2種類があります。
- 陽イオン交換樹脂
- 陰イオン交換樹脂
陽イオン交換樹脂では、陽イオンを交換できます。例えばNaCl水溶液を「H+が結合している陽イオン交換樹脂」に通すとします。この場合、Na+がH+に交換されます。つまりNaCl水溶液を陽イオン交換樹脂に通すことにより、出てくる水溶液はHClになります。
一方、陰イオン交換樹脂は陰イオンを交換します。例えばNaCl水溶液を「OH–が結合している陰イオン交換樹脂」に通すと、Cl–とOH–が交換されてNaOH水溶液になります。
このように、特定のイオンを交換する樹脂がイオン交換樹脂です。
それでは、NaCl水溶液に対して陽イオン交換樹脂(H+に交換)と陰イオン交換樹脂(OH–に交換)の両方に通せばどのようになるのでしょうか。この場合、Na+は陽イオン交換樹脂に吸着され、Cl–は陰イオン交換樹脂に吸着されます。
また陽イオン交換樹脂によってH+に交換され、陰イオン交換樹脂によってOH–に交換されます。H+とOH–は中和反応を起こし、H2Oになります。そのため海水を陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂に通すと、NaClを除去して真水に変えることができます。
イオン交換樹脂を利用し、水溶液中に存在するイオンを除去した水をイオン交換水といいます。イオン交換水は純水(何の不純物も含まない水)ではありません。ただイオンを含まない水がイオン交換水であり、イオン交換水は研究室や工場など多くの場面で利用されます。
イオン交換樹脂によってイオンが交換される理由
それでは、なぜイオン交換樹脂を利用することでイオン交換が可能になるのでしょうか。陽イオン交換樹脂も陰イオン交換樹脂もポリマーの構造はほとんど同じです。そのため、両方の構造を同時に学びましょう。
イオン交換樹脂を合成するとき、スチレンとp-ジビニルベンゼンを共重合させます。これにより、以下のようなポリスチレンを基盤とする三次元網目構造の樹脂となります。
ポリスチレンに対して、酸性基を加えると陽イオン交換樹脂となり、塩基性基を加えると陰イオン交換樹脂となります。
例えばポリスチレンにスルホン基-SO3Hを加えると、陽イオン交換樹脂になります。また、ポリスチレンにアルキルアンモニウム基を導入すると陰イオン交換樹脂になります。例えばH+へ交換できる陽イオン交換樹脂とOH–へ交換できる陰イオン交換樹脂は以下のような構造になります。
つまり、H+を含む陽イオン交換樹脂には大量のH+が存在することになります。そのため、陽イオン交換樹脂に水溶液を通すと陽イオンが陽イオン交換樹脂に捕捉され、H+に交換されます。また陰イオン交換樹脂は大量のOH–を保有しているため、イオンがOH–に変換されます。
置換するイオンは自由に設定でき、可逆反応によって再利用可能
ここまで、H+またはOH–を保有するイオン交換樹脂について解説してきました。重要なのは、イオン交換樹脂は自由に置換するイオンを設定できます。
例えば、Na+に交換できる陽イオン交換樹脂を作ることができます。この場合、Na+を保有する陽イオン交換樹脂にHCl水溶液を通すと、H+が陽イオン交換樹脂に捕捉されてNa+に交換され、NaCl水溶液を作れます。
またCl–に交換できる陰イオン交換樹脂を作れます。この場合、Cl–を保有する陰イオン交換樹脂にNaOH水溶液を通すと、OH–がCl–に交換され、NaCl水溶液を得られます。利用するイオン交換樹脂によって交換できるイオンが変わります。
・イオン交換樹脂は再利用可能
特定のイオンを大量に補足している製品がイオン交換樹脂です。そのためイオン交換樹脂を利用していると、徐々にイオン交換機能が落ちてきます。
この場合、イオン交換樹脂を元の状態に戻すことができます。例えばH+へのイオン交換機能が低下した陽イオン交換樹脂の場合、陽イオン交換樹脂の内部を再びH+で満たすことで機能を回復させることができます。イオン交換は可逆反応なので再利用が可能なのです。
アミノ酸の分離をイオン交換樹脂で行う:等電点の利用
それでは、イオン交換樹脂の性質を利用してアミノ酸を分離する方法を学びましょう。アミノ酸は双性イオン(両性イオン)であり、等電点をもっています。
多くの場合、アミノ酸の等電点は中性付近です。ただ酸性アミノ酸の場合、等電点は酸性側です。また塩基性アミノ酸の場合、等電点は塩基性側です。以下のようになっています。
つまり、アミノ酸は水溶液のpHによってイオンの形が変わります。例えば酸性アミノ酸であるグルタミン酸の場合、pHの変化によって以下のように電荷が変わります。
等電点よりもpHが小さい場合、アミノ酸は陽イオンになります。一方で等電点よりもpHが大きい場合、陰イオンになります。pHの値が小さいと水溶液中のH+が多く、pHの値が大きいと水溶液中のOH–が多いため、この性質は容易に理解できると思います。
・イオン交換樹脂とアミノ酸が吸着する条件
次に、イオン交換樹脂とアミノ酸がどのようなときに吸着するのか理解しましょう。陽イオン交換樹脂は陽イオンを吸着します。
陽イオンが陽イオン交換樹脂を通ると、例えばイオン交換樹脂に存在するH+と置き換わることは既に説明しました。そのためアミノ酸が陽イオンの場合、陽イオン交換樹脂に吸着します。
また陰イオン交換樹脂は陰イオンを吸着します。陽イオンが陽イオン交換樹脂を通ることにより、陽イオン交換樹脂に存在するOH–などのイオンと置き換わるのです。そのためアミノ酸が陰イオンの場合、陰イオン交換樹脂に吸着します。
ここまでの内容を理解したうえで、以下の問題を解きましょう。
- グルタミン酸(等電点3.2)、グリシン(等電点6.0)、リシン(等電点9.7)があります。
- pH4の緩衝液に溶解させるとき、陽イオン交換樹脂に吸着するアミノ酸はどれでしょうか。
- pH6の緩衝液に溶解させるとき、陰イオン交換樹脂に吸着するアミノ酸はどれでしょうか。
- pH9の緩衝液に溶解させるとき、陰イオン交換樹脂に吸着するアミノ酸はどれでしょうか。
1)
pH4のとき、陽イオンの場合は陽イオン交換樹脂に吸着されます。グルタミン酸の等電点は3.2であるため、pH4では陰イオンになっています。一方、pH4はグリシンとリシンの等電点よりも低く、グリシンとリシンは陽イオンになっています。そのため、答えはグリシンとリシンです。
なおグルタミン酸を陽イオンに吸着させた後、強酸水溶液を通せばグルタミン酸は遊離し、グルタミン酸のみを得ることができます。
2)
陰イオン交換樹脂に吸着するためには、化合物は陰イオンである必要があります。pH6のとき、陰イオンのアミノ酸はどれでしょうか。pH6では、グルタミン酸(等電点3.2)は陰イオンです。そのため、グルタミン酸は陰イオン交換樹脂に吸着されます。
一方、グリシン(等電点6.0)はプラスにもマイナスにも荷電しておらず、陽イオン交換樹脂にも陰イオン交換樹脂にも吸着されません。またリシン(等電点9.7)はpH6で陽イオンであるため、陰イオン交換樹脂に吸着されません。
3)
pH9では、グルタミン酸は陰イオン、グリシンは陰イオン、リシンは陽イオンです。そのため、陰イオン交換樹脂に吸着するアミノ酸はグルタミン酸とグリシンです。
高吸水性高分子の三次元網目構造と吸水の仕組み
次に、高吸収性高分子を学びましょう。機能性高分子の中には、水を大量に吸収する高分子化合物が存在します。
高吸水性高分子を利用している例に紙おむつや生理用品があります。おしっこをしても、おむつが尿を吸収するため、漏れることはありません。
それでは、高吸水性高分子はどのような構造になっているのでしょうか。アクリル酸ナトリウムに架橋剤を加えて重合させると、ポリアクリル酸ナトリウムを得ることができます。
前述の通り架橋剤を加えているため、ポリアクリル酸ナトリウムは架橋構造をもっており、三次元網目構造となっています。
ポリアクリル酸ナトリウムが水と触れると、-COONaが電離することで-COO–とNa+に分かれます。つまり、イオンを生じます。また少量のイオンが生じている状態では、イオンの濃度が高いです。そのためイオン濃度を薄くするための力(浸透圧)を生じます。言い換えると、水を強く保持します。
またNa+は自由に動くことができるものの、-COO–はポリアクリル酸ナトリウムに結合しているため、固定されています。-COO–はマイナスの電荷をもっているため、イオン化することで-COO–は互いに反発し、三次元網目構造が広がっていきます。
こうして浸透圧を利用して水が内部に入り込み、樹脂(ポリアクリル酸ナトリウム)は自身の質量の500~1000倍もの水を吸収・保持できます。
生分解性高分子:微生物によって分解される高分子化合物
プラスチックや合成ゴムなどの石油製品は便利であるものの、自然界に存在しない物質であるため、微生物によって分解されにくいという欠点があります。そこで、自然界で分解される高分子化合物に生分解性高分子があります。
加水分解や微生物によって分解されるようにするとき、一般的に親水性の高い樹脂にするほど分解されやすくなります。ただプラスチック製品に比べて、こうした製品は耐久性に劣るという欠点があります。
生分解性高分子の代表例として、ヒドロキシ酸(-OHと-COOHをもつ化合物)のポリマーがあります。例えば乳酸を縮合重合させるとポリ乳酸となります。またグリコール酸を縮合重合させるとポリグリコール酸になります。
これらの高分子化合物は加水分解や微生物による分解により、最終的に水や二酸化炭素になります。そのため釣り糸や食器容器として利用されています。
なお、生分解性高分子は医療分野でも重要であり、外科手術用の縫合糸で利用されています。生体内で分解されるため、抜糸の必要がありません。そのため手術の手間が少なくなり、患者側の負担も少なくなります。
機能性高分子は身近な高分子化合物
合成高分子化合物は私たちが日常的に利用しており、これは機能性高分子も同様です。私たちは毎日、機能性高分子を組み込んでいる製品を利用しています。
機能性高分子は種類が多く、その中でも代表的なイオン交換樹脂、高吸水性高分子、生分解性高分子を解説してきました。
それぞれの製品の機能を覚えることに加えて、化学的な性質も理解しましょう。分子構造を学ぶことによって、なぜこれらの製品が特殊な機能をもつのか学ぶのです。そうすれば、化学が日常生活の多くの場面で役立っていることを理解できます。
多くの企業が機能性高分子の研究開発をしています。これらの製品を利用することにより、私たちの生活の質が向上するのです。