高分子化合物で重要な化合物にゴムがあります。ゴムには天然ゴムがあれば、合成ゴムもあります。多くの場面でゴムが利用されており、私たちの生活にとって欠かせないアイテムがゴムです。
ゴムには特有の性質があり、伸びたり縮んだりします。そこで、天然ゴムの構造を理解しましょう。天然ゴムでは、加硫という操作によって弾性を強くすることができます。
またひんぱんに利用される製品が合成ゴムです。人工的にゴムを作るとき、付加重合や共重合、その他の方法と複数の合成法があります。そこで、合成ゴムの合成法や生成物の特徴を理解しましょう。
それでは、天然ゴムや合成ゴムの性質には何があるのでしょうか。また、合成ゴムの合成法や種類には何があるのでしょうか。高校化学で学ぶ高分子化合物について、天然ゴムと合成ゴムを解説していきます。
もくじ
天然ゴムの性質と構造
まず、天然ゴムの性質と構造を確認しましょう。天然ゴムの原料はゴムノキという木から採取できます。ゴムノキに傷をつけ、ラテックス(乳白色の液体)を得るのです。
ただラテックスは液体であり、炭化水素の疎水コロイド粒子です。そこでラテックスに酢酸などの酸を加え、凝析させます。これによってラテックスは凝固し、天然ゴム(生ゴム)を得られます。
それでは、天然ゴムの構造式はどのようになっているのでしょうか。天然ゴムでは、イソプレンがシス型で結合している構造となっています。
ゴムが伸びるのは、分子構造がすべてシス型になっているからです。シス型となっているため、分子は折れ曲がりの構造となっています。そこでゴムを引っ張ると、分子の軸が回転することによって縮んでいた分子構造が伸びます。こうしてゴムは伸びるのです。
加硫での架橋構造による弾性ゴムと酸化によるゴムの老化
ただ先ほど説明した構造のままでは、ゴムは伸びるものの縮みません。実際、天然ゴムは弾力性が非常に弱く実用で利用されることはありません。
そこで、天然ゴムに対して硫黄を加えて加熱します。この操作を加硫といいます。天然ゴムに3~8%の硫黄を加え、加硫することによって弾性ゴム(輪ゴムなど)になります。市販されている天然ゴムは加硫されています。
天然ゴムに対して硫黄を加えると、硫黄Sによって炭素同士の結合が形成されます。こうして天然ゴムは立体網目状構造となり、硫黄Sによる留め具が作られます。
留め具が存在するため、天然ゴムが伸ばされたとしても、元の構造に戻ります。加硫により、ゴムに弾性が生まれるのです。
硫黄によってゴム同士に結合ができるとき、この構造を架橋構造(かきょうこうぞう)といいます。ゴムが伸び縮みする理由の一つが架橋構造です。
・酸化によってゴムは劣化する
なお、時間経過と共にゴムは伸縮性が悪くなり、縮まらなくなります。この理由として、空気中の酸素によってゴムが酸化され、二重結合が切断されるからです。
ゴムが縮むのは、シス型による二重結合が存在するからです。そのため二重結合がなくなると、ゴムは常に伸びた状態となります。これをゴムの老化といいます。
合成ゴムの種類:付加重合、共重合
次に合成ゴムを確認しましょう。天然ゴムと同様に弾性を示す合成高分子化合物が合成ゴムです。合成ゴムには種類があるため、合成の種類に応じて分類分けしましょう。以下のようになります。
- 付加重合による合成ゴム
- 共重合による合成ゴム
- その他の合成法による合成ゴム:シリコーンゴム
それぞれの合成ゴムを確認しましょう。
イソプレンに似た物質による付加重合での合成ゴム生成
前述の通り、天然ゴムの分子構造はイソプレンによる重合体です。そのため「イソプレンに似た物質を利用し、付加重合させるとゴムを得られる」とわかります。
このときはラテックスではなく、イソプレンを用いて人工的にゴムを合成することがあれば、イソプレンに似た物質を利用してゴムを合成することもあります。イソプレンと同じ分子骨格を利用して付加重合させるのです。
具体的には、以下の分子構造を利用します。
X=CH3の場合、単量体(モノマー)はイソプレンです。またイソプレンを付加重合させることで得られる重合体(ポリマー)はポリイソプレンになります。天然ゴムを人工的に合成した化合物がポリイソプレンです。
一方、Xがほかの置換基の場合、イソプレンに似た物質を利用して合成ゴムを得られます。
・ブタジエンゴム(BR):ブタジエンを利用する合成ゴム
X=Hの場合、単量体(モノマー)はブタジエンです。ブタジエンを付加重合により、ブタジエンゴム(BR:ポリブタジエン)を得られます。
弾性や耐摩擦性に優れているため、ブタジエンゴムはタイヤやゴムホースなど、多くの場面で利用されています。
・クロロプレンゴム(CR):クロロプレンを利用する合成ゴム
X=Clの場合、クロロプレンと呼ばれます。またクロロプレンを付加重合させることにより、クロロプレンゴム(CR:ポリクロロプレン)を得ることができます。
クロロプレンゴムは耐熱性や耐薬品性に優れており、加工しやすいです。自動車部品やウェットスーツ、ホースなど、クロロプレンゴムの利用場面は多いです。
共重合:2種類以上の単量体から合成される合成ゴム
イソプレンの付加重合では、同じ化合物が重合体を作ります。一方、異なる2種類以上の単量体を利用して合成される合成ゴムが存在します。2種類以上の単量体(モノマー)を利用して重合させる合成反応を共重合といいます。
二重結合を有するからこそ、ゴムとしての性質を有します。そのため共重合によって合成ゴムを得るとき、モノマーは二重結合をもつ化合物を利用します。
共重合を利用して合成できる合成ゴムとしては以下があります。
・スチレン-ブタジエンゴム(SBR):スチレンとブタジエンの共重合
スチレンとブタジエンを利用して共重合させると、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)を得ることができます。
代表的な合成ゴムがスチレン-ブタジエンゴムです。スチレン-ブタジエンゴムは自動車用タイヤとして最も利用されています。
・アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)
アクリロニトリルとブタジエンを共重合させることにより、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)を得ることができます。
特殊ゴムの一つがアクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)であり、耐油性に優れています。アクリロニトリル-ブタジエンゴムは石油ホースや自動車部品で広く利用されています。
その他の合成ゴム:シリコーンゴム
ここまで解説したゴムはどれも、炭素原子が基本骨格となっています。ただ合成ゴムによっては、基本骨格が炭素骨格ではないケースがあります。このような合成ゴムにシリコーンゴムがあります。
シリコーンゴムはケイ素を含んでいます。ケイ素と酸素による結合(シロキサン結合)を含む高分子化合物を総称してシリコーンといいます。
シリコーンゴムを合成するとき、ジクロロジメチルシランを加水分解することによって、重合体であるジメチルポリシロキサンを作ります。
その後、過酸化物(過酸化ベンゾイルなど)を用いることによって架橋構造を作ります。
一般的な合成ゴムとは異なり、シリコーンゴムには二重結合がありません。そのためシリコーンゴムは酸化の影響が少なく、耐久性に優れています。劣化しにくい性質をもつため、シリコーンゴムは家電製品や医療機器、建築資材など利用場面が多いです。
天然ゴムと合成ゴムの性質を理解する
私たちにとって身近な製品がゴムです。伸び縮みする化学物質は珍しく、シス型による二重結合や架橋構造をもつことによって弾性を示します。
まず、天然ゴムの性質を理解しましょう。ラテックスを利用して天然ゴムが作られるものの、弾性が弱いために利用できません。そこで硫黄を加えて加熱し、分子同士で架橋構造が形成されることによって弾性ゴムとなります。
またイソプレンの構造を利用することで付加重合させると、合成ゴムを作れます。二重結合を有する化合物を共重合させることによっても、合成ゴムの合成が可能です。一方、シリコーンゴムは炭素骨格をもたない合成ゴムであり、二重結合がないので劣化しにくい性質があります。
ゴムの構造を確認すれば、化学的性質を理解できます。そこで高分子化合物を学ぶとき、天然ゴムと合成ゴムの構造と性質を理解しましょう。