有機化学で学ぶ内容に不飽和度があります。炭素以外の原子に着目することで、どのような構造式をもつ化合物なのか推測できるのです。つまり、不飽和度を計算することで構造決定に役立てることができます。

不飽和度というのは、炭化水素に結合している水素の割合を指します。不飽和度を確認すれば、二重結合や三重結合の数を推測できるのです。

また有機化合物は構造式の中にハロゲンやN、O、Sを含むことが多いです。この場合、不飽和度について補正しなければいけません。

それでは、どのように公式を利用して不飽和度を計算すればいいのでしょうか。不飽和度を用いて有機化合物の構造を推測する方法を解説していきます。

有機化学での飽和炭化水素と不飽和炭化水素

有機化学の基礎では、飽和炭化水素と不飽和炭化水素を学びます。飽和と不飽和の違いは以下になります。

  • 単結合のみの炭化水素:飽和炭化水素
  • 二重結合または三重結合をもつ炭化水素:不飽和炭化水素

不飽和度というのは、「構造の中にいくつの二重結合または三重結合があるのか」を表します。

炭化水素には最大の水素数が存在する

不飽和度では水素に着目しましょう。炭化水素によって、最大の水素数が変化するからです。アルカン、アルケン、アルキンを学んでいる場合、以下のように化学式を表せると既に習っていると思います。

  • アルカン:CnH2n+2
  • アルケン:CnH2n
  • アルキン;CnH2n-2

アルカンは単結合のみの炭化水素です。そのため、水素の最大数は2n+2個になります。例えば、プロパンの化学式はC3H8です。

一方、プロピレン(プロペン)の化学式はC3H6です。二重結合が構造式の中に1つ加わることで、Hの数が2つ減ります。

それでは、構造式の中に三重結合を1つもつ、または二重結合を2つもつ化合物はどのような化学式で表されるのでしょうか。この場合、プロパンに対してHが4つ減り、C3H4となります。

このように二重結合または三重結合を含む場合、炭素の数は同じであるものの、水素の数が変わることを理解しましょう。

・シクロアルカンも水素の数が減る

なお二重結合または三重結合を構造式に含む場合だけでなく、環状化合物であっても水素の数が減ります。例えばシクロアルカンの化学式はCnH2nで表されます。つまり、シクロアルカンはアルケンと同じ化学式になります。

そのため不飽和殿計算では、二重結合と三重結合に加えて、環状化合物も考慮しなければいけません。

有機化合物の不飽和度の計算

ここまでの内容を理解して、不飽和度の公式を利用しましょう。前述の通り、アルカンの化学式はCnH2n+2で表すことができます。そこで2n+2個の水素をもつ場合、不飽和度(二重結合または三重結合を含む割合)を0にしましょう。

また、二重結合を構造式に1つ含む場合、不飽和度が1ずつ増えるようにします。これを公式にすると以下のようになります。

  • 不飽和度\(=\displaystyle\frac{(2C+2)-H}{2}\)

※Cは炭素原子の数、Hは水素原子の数

この公式を利用すると、プロパンC3H8の不飽和度は0であるとわかります。

\(=\displaystyle\frac{(2×3+2)-8}{2}=0\)

また、プロピレンC3H6の不飽和度は1です。

\(=\displaystyle\frac{(2×3+2)-6}{2}=1\)

プロピンC3H4やプロパジエンC3H4の場合、不飽和度は2です。

\(=\displaystyle\frac{(2×3+2)-4}{2}=2\)

こうして、公式を利用して不飽和度の計算が可能です。

不飽和度を構造決定に役立てる

それでは、不飽和度を利用してどのように構造決定に役立てればいいのでしょうか。先に解説した通り、不飽和度が0の場合、構造式に二重結合や三重結合がありません。また、環状化合物でもありません。

一方、不飽和度が1の場合、化学式はCnH2nとなります。この場合、化合物は構造式に二重結合をもつ、またはシクロアルカンになります。このように、不飽和度によって構造の種類を推測できます。不飽和度を確認すると、以下のようになります。

  • 不飽和度0:化合物はアルカン
  • 不飽和度1:二重結合1つ、またはシクロアルカン
  • 不飽和度2:二重結合2つ、または三重結合1つ、または二重結合1つ+環1つ、または環2つ
  • 不飽和度3:二重結合3つ、または二重結合1つ+三重結合1つ、または二重結合2つ+環1つ、または二重結合1つ+環2つ、または三重結合1つ+環1つ、または環3つ

このように、不飽和度を確認することで二重結合や三重結合、環を構造式にいくつ含むかを確認できます。

不飽和度の公式の意味と補正

ただ、有機化合物では炭素Cと水素Hだけでなく、ハロゲン(F、Cl、Br、I)や窒素N、酸素O、硫黄Sを含むことも多いです。つまりH以外の元素を含むため、先ほどの公式を利用しても構造式を推測できないケースが多いです。

そこで、不飽和度の公式について補正しましょう。不飽和度の補正をするため、先ほどの公式の意味を学びましょう。

\(2C+2\)は炭素Cがいくつの水素Hと結合できるのかを表します。アルカンの化学式はCnH2n+2であるため、これについては問題なく理解できると思います。また\(2C+2\)がHの数と等しい場合、\((2C+2)-H=0\)になります。そのため、不飽和度が0の場合はアルカンと判断できます。

なお二重結合が一つ増えると、Hの数は2減ります。そこで2で割ると、先ほど解説した以下の公式を得ることができます。

  • 不飽和度\(=\displaystyle\frac{(2C+2)-H}{2}\)

不飽和度の補正をするとき、公式の意味を学んでいないと内容を理解することができません。

ハロゲン、N、O、Sを含む不飽和度の補正式

それでは、実際に補正をしてみましょう。それぞれのパターンに分けて考えていきます。

・ハロゲン(F、Cl、Br、I)を含む場合

構造式の中にハロゲンを含む場合、水素Hと同じように、炭素Cはハロゲン(F、Cl、Br、I)に対して一つの手を利用して結合を作ります。そのため構造式の中にハロゲンを含む場合、ハロゲンXの数を引きましょう。

  • 不飽和度\(=\displaystyle\frac{(2C+2)-H\color{red}{-X}}{2}\)

・窒素Nを含む場合

窒素Nが炭素Cに結合する場合、結合できる手が一つ増えます。炭素の数が同じ化合物の場合、構造式を確認すると、以下のように窒素Nが存在することによって結合できる水素Hが一つ増えていることがわかります。

そのため窒素が構造式の中にある場合、結合できる水素の数が一つ増えるため、窒素Nの数に応じて不飽和度を増やしましょう。そのため、補正式は以下のようになります。

  • 不飽和度\(=\displaystyle\frac{(2C+2)-H-X\color{red}{+N}}{2}\)

・酸素Oまたは硫黄Sを含む場合

酸素Oや硫黄Sが構造式の中に含まれる場合、結合できる水素Hの数は変わりません。酸素や硫黄は2本の手をもっているため、炭素と結合する場合、もう一方の手で結合できる水素は一つです。

つまり構造式の中に酸素Oや硫黄Sがあっても、不飽和度に変化がないとわかります。そのため、不飽和度の補正では以下の公式を利用しましょう。

  • 不飽和度\(=\displaystyle\frac{(2C+2)-H-X+N}{2}\)

なお注意点として、構造式に酸素Oがある場合、以下のように二重結合を含むケースがあります。

この場合、不飽和度が変化します。ただ酸素Oが二重結合を作らない場合、先ほど記したように、酸素Oは不飽和度に影響しません。

不飽和度を利用し、構造式を推測する

炭化水素が保有できる水素の数には最大数があります。また二重結合が一つ増えると、結合できる水素の数が2つ減ります。環状化合物でも結合可能な水素の数は2つ減り、三重結合をもつ場合は結合できる水素の数は4つ減ります。

この性質を利用するのが不飽和度です。いくつ二重結合や三重結合を含むのかを表すのが不飽和度です。また、構造式に環を含むケースもあります。

ただ炭素は水素だけでなく、ほかの元素とも結合を作ります。そこでハロゲンや窒素、酸素、硫黄と結合を作るとき、不飽和度がどのように変化するのか学びましょう。

不飽和度を理解するためには、不飽和度の公式が何を意味しているのか知る必要があります。そこで公式の意味を学び、構造決定に不飽和度を利用できるようになりましょう。