高校化学で学ぶ内容に糖類の性質があります。私たちは毎日、食事として糖分を摂取しています。糖は栄養素であり、私たちにとって不可欠なのです。

糖には種類があります。また糖の種類によって性質が異なるため、どのような化学的性質をもつのか理解する必要があるのです。

高分子化合物の概念を学んでいる場合、糖類の性質を理解できます。糖類には単糖類、二糖類、多糖類があり、多糖類は天然高分子化合物です。単糖類がいくつも連なることによって多糖類になるのです。

それでは、化学で重要な糖の種類や性質には何があるのでしょうか。それぞれの糖について、化学的な特徴を解説していきます。

糖類の分類;単糖類、二糖類、多糖類

まず、糖類の分類をしましょう。糖には主に以下の3つが存在します。

  • 単糖類
  • 二糖類
  • 多糖類

これ以上、分けることのできない一つの糖を単糖類といいます。単糖類は単量体(モノマー)でもあります。

一方、2つの単糖類が結合することによって構成される糖を二糖類といいます。二糖類を加水分解すると、2つの単糖類を得ることができます。

また多数の単糖類が結合している化合物は多糖類と呼ばれます。多糖類を加水分解すると、多数の単糖類を得られます。二糖類と多糖類は重合体(ポリマー)です。

単糖類や二糖類は水に溶け、甘みを示します。それに対して、多糖類は分子量が大きいので水に溶けず、甘みを示しません。

単糖類(ヘキソース:六単糖)の性質:還元性とアルコール発酵

それでは、単糖類の性質を確認していきましょう。単糖類はCnH2nOnという一般式で表されます。糖は環状で存在していることが多く、六員環を基盤にする糖があれば、五員環を基盤にする糖もあります。

六員環を基盤にする糖をヘキソース(六単糖)、五員環を基盤にする糖をペントース(五単糖)といいます。

高校化学で学ぶ糖の基本では、重要なのはヘキソースです。そのため、ヘキソースをメインに解説していきます。

ヘキソースは六員環であり、炭素数は6です。nが6であるため、C6H12O6で表されます。単糖類には主に以下の種類があります。

  • グルコース(ブドウ糖)
  • フルクトース(果糖)
  • ガラクトース(脳糖)

グルコース(ブドウ糖)は最も一般的な糖です。またフルクトース(果糖)は果物やハチミツに含まれています。ガラクトース(脳糖)は乳製品に含まれている糖です。これらの単糖類を組み合わせることによって二糖類や多糖類になります。

単糖類の性質には、主に2つあります。一つは還元性です。単糖類は通常、六員環構造をしています。ただ場合によっては鎖状構造となるケースがあり、鎖状構造の単糖類はホルミル基を有します。鎖状の単糖類はアルデヒドでもあるため還元性を有するのです。

還元性を示すため、単糖類は銀鏡反応やフェーリング反応を示します。

また、糖類はアルコール発酵によってエタノールと二酸化炭素に分解されます。糖のアルコール発酵によってお酒ができます。ワインやビール、ウイスキーというのは、糖をアルコール発酵することによって作られるのです。

グルコース(ブドウ糖)の性質と異性体:α-グルコースとβ-グルコース

それでは、単糖類で最も有名なグルコース(ブドウ糖)の性質から確認していきましょう。デンプンやセルロールを構成しているのがグルコースです。つまりデンプンやセルロースを分解するとグルコース(ブドウ糖)になります。

グルコースは3つの構造を取ることが知られています。一つの化合物ではあるものの、異なる3つの構造が平衡状態で存在しているのです。グルコースにはα-グルコース、鎖状構造、β-グルコースの3つの構造があります。

α-グルコースでは、1位の炭素に結合している-OHが下向きになっています。それに対して、β-グルコースでは1位の炭素に結合している-OHが上向きです。α-グルコースとβ-グルコースは構造異性体の関係です。ただ、光学異性体の関係ではありません。

わずかな違いではあるものの、化学で糖を学ぶとき、α-グルコースとβ-グルコースの違いは非常に重要です。そのため、必ず区別できるようにしましょう。なお前述の通り、鎖状のグルコースはホルミル基があるので還元性をもちます。

フルクトース、ガラクトースの構造と性質

果物やハチミツに含まれている糖がフルクトース(果糖)です。グルコースとは異なり、フルクトースでは六員環構造(ヘキソース)だけでなく、五員環構造(ペントース)があります。

フルクトースにはα-フルクトース(六員環)、α-フルクトース(五員環)、β-フルクトース(六員環)、β-フルクトース(五員環)、鎖状構造の5種類があります。5つの構造が平衡状態で存在するため、グルコースよりも構造は複雑です。

詳細な構造式を覚える必要はないものの、グルコースと比べてこうした違いがあります。

またフルクトースは鎖状構造をもつため還元性があります。詳細は述べませんが、鎖状のフルクトースは構造を変え、ホルミル基(アルデヒド)をもつ構造となります。単糖類というのは、フルクトースを含めて還元性があるのです。

・ガラクトースはグルコースと構造がほぼ同じ

ガラクトースについては、グルコースと構造がほぼ同じです。α-グルコースに対して、4位の炭素に結合している-OHの場所が入れ替わるとα-ガラクトースになります。

グルコースと構造がほぼ同じであるため、ガラクトースについてもα-ガラクトース、鎖状構造、β-ガラクトースの3種類の構造異性体があります。また鎖状構造ではアルデヒドになるため、ガラクトースは還元性を示します。

参考までに、糖の甘さ順は以下のようになっています。

  • フルクトース > グルコース > ガラクトース

有機化学で糖を学ぶとき、それぞれの構造と性質を覚えましょう。

二糖類の種類と還元性

先ほど解説した単糖類について、2つの単糖類が結合すると二糖類になります。単糖類が脱水・縮合することにより、2つの糖がつながるのです。重要な二糖類は以下になります。

  • マルトース(麦芽糖)
  • セロビオース
  • ラクトース(乳糖)
  • スクロース(ショ糖)

マルトース(麦芽糖)、セロビオース、ラクトース(乳糖)は還元性を示します。一方、スクロース(ショ糖)は還元性を示しません。二糖類を学ぶとき、まずはこの違いを覚えましょう。

マルトース(麦芽糖):2つのα-グルコースによるグリコシド結合

二糖類の中でも、マルトース(麦芽糖)から確認していきましょう。マルトースは2つのα-グルコースで構成されています。

α-グルコースにある1位の-OHと4位の-OHが結合することによってマルトースになります。このとき、糖の結合部分をグリコシド結合といいます。

α-グルコースでは、1位の炭素がアルデヒドになることを解説しました。マルトースは前述の通り2つのα-グルコースで構成されているため、右端の炭素がアルデヒドになれます。

なお、デンプンにアミラーゼという酵素を加えるとマルトースとなります。唾液に含まれる成分がアミラーゼです。また、マルトースにマルターゼという酵素を加えると、加水分解によって2つのグルコースになります。

なお正確にいうと、左側はα-グルコースである必要はありますが、右側のグルコースは鎖状構造を取れることからわかる通り、α-グルコースになることがあれば、β-グルコースになることもあります。ただ、2つのα-グルコースでマルトースが構成されると考えれば覚えやすいです。

セロビオース:2つのβ-グルコースがグリコシド結合でつながる

マルトースとほぼ同じ構造をしている化合物がセロビオースです。マルトースでは、2つのα-グルコースが脱水・縮合することによって得ることができます。一方、セロビオースは2つのβ-グルコースが脱水・縮合することで得られます。

α-グルコースに対して、β-グルコースでは1位の-OHが上側にあります。そのため、1位にある-OHと4位にある-OHは縮合によって以下のようにつながります。

マルトースと同様、2つの糖がつながっている結合部分をグリコシド結合といいます。またマルトースと同様に、セロビオースでは右端の部分がアルデヒドになることができるため、還元性を示します。

先ほどのマルトースと同じように、左側はβ-グルコースである必要があります。一方、右側のグルコースはα-グルコースとβ-グルコースの両方になれます。

なおセルロースに対して、セルラーゼという酵素を加えるとセロビオースが生成されます。またセロビオースに対して、セロビアーゼという酵素を加えて加水分解すると2つのグルコースを生じます。

ラクトース(乳糖):β-ガラクトースとグルコースの脱水縮合

異なる糖が結合している二糖類にラクトース(乳糖)があります。ラクトースは「β-ガラクトースの1位の炭素に結合している-OH」に対して、グルコースの4位に結合している-OHが脱水・縮合した構造になっています。

以下のように、β-ガラクトースとグルコースがグリコシド結合によって繋がることでラクトースになります。

ラクトース(乳糖)では、左側の糖はβ-ガラクトースである必要があります。ただ右側の糖はグルコースであれば、α-グルコースでもβ-グルコースでもいいです。

教科書によっては、「ラクトースはβ-ガラクトースとα-グルコースで構成される」と記載されていることがあれば、「ラクトースはβ-ガラクトースとβ-グルコースで構成される」と記載されていることもあります。これは両方とも正しいです。

また右側の糖(グルコース)はホルミル基を有する鎖状構造になれます。そのため、ラクトースは還元性を示します。

なおラクトースに対してラクターゼという酵素を加えると、加水分解されてガラクトースとグルコースが生成されます。

スクロース(ショ糖):α-グルコースとβ-フルクトースによる縮合

二糖類の中では、スクロース(ショ糖)は還元性を示さないのが特徴です。これまで解説した二糖類は「1位の炭素に結合している-OH」と「4位の炭素に結合している-OH」が縮合しています。鎖状構造になれる-OHが存在するため、還元性を示すのです。

一方でスクロースでは、鎖状構造に関係している「α-グルコースの1位に結合している-OH」と「β-フルクトースの2位に結合している-OH」がグリコシド結合しています。

鎖状構造に関与している-OHを利用して2つの糖が結合しているため、スクロースには還元性がないのです。

なおスクロースにスクラーゼという酵素を加えると、グルコースとフルクトースが一つずつ生成されます。

多糖類の種類:デンプン、セルロース、グリコーゲン

単糖類がたくさん結合した重合体(ポリマー)が多糖類です。高校化学で重要な多糖類は以下になります。

  • デンプン
  • セルロース
  • グリコーゲン

どれも基本的な多糖類であり、名前を聞いたことがあると思います。どれも重要な多糖類なので性質を覚えましょう。

なお単糖類や二糖類とは異なり、多糖類は水に溶けにくく、還元性を示しません。還元性がないので銀鏡反応やフェーリング反応を示しません。

デンプン:α-グルコースによるアミロースとアミロペクチン

米や小麦、ジャガイモなど、私たちが主食として食べる食物に含まれている天然高分子化合物がデンプンです。前述の通り、唾液にはアミラーゼが含まれています。デンプンにアミラーゼを加えると、加水分解されてマルトースになります。

またマルトースはマルターゼという酵素によってグルコースへと分解されます。グルコースは栄養素として腸から吸収されます。

なお、デンプンにはアミロースとアミロペクチンの2種類あります。

  • アミロース:1,4-グリコシド結合
  • アミロペクチン:1,4-グリコシド結合と1,6-グリコシド結合(枝分かれ構造)

アミロースとアミロペクチンの違いは何でしょうか。まず、アミロースの構造を確認していきましょう。アミロースではα-グルコースについて、1位の炭素に結合している-OHと4位の炭素に結合している-OHが縮合して結合しています。

1位と4位にある-OHを利用してグリコシド結合しているため、1,4-グリコシド結合と呼ばれます。

一方でアミロペクチンは1,4-グリコシド結合に加えて、1,6-グリコシド結合をもちます。1,6-グリコシド結合があるため、以下のように枝分かれがあります。

1,6-グリコシド結合がなぜ枝分かれに関与するのかについては、このように構造を確認すれば容易に理解できます。

なお多くのグルコースが連なることによって、デンプンはらせん構造を取ります。そのためヨウ素液をデンプンに加えると、デンプンがもつらせん構造の中にI2が入り込み、青紫色になります。これをヨウ素デンプン反応といいます。

セルロース、グリコーゲンの構成成分と性質

植物には細胞壁があり、セルロースは細胞壁の主成分です。デンプンはα-グルコースが連なる構造でしたが、セルロースはβ-グルコースが1,4-グリコシド結合することによって構成されます。

β-グルコースが直線状に連なることでセルロースとなります。具体的には、1つのβ-グルコースと反転した1つのβ-グルコースが何度も連なることによってセルロースが構成されます。

グルコールが重合するとき、α-グルコースであればデンプンになるものの、β-グルコースが連なる場合はセルロースになるのです。なおセルロースはらせん構造になっていないため、ヨウ素デンプン反応を示しません。

またセルロースにセルラーゼという酵素を加えると、セロビオース(二糖類)になります。

・グリコーゲンの性質

エネルギー貯蔵物質としてグリコーゲンが知られています。私たちがグルコースを体内に取り入れた後、エネルギーとして貯蔵するため、体内でグリコーゲンが作られるのです。その後、必要なときにグリコーゲンが分解されてグルコースになり、エネルギー源として利用されます。

デンプンと同じように、α-グルコースの縮合重合によってグリコーゲンを得ることができます。

デンプン(アミロース、アミロペクチン)とグリコーゲンの違いとして、グリコーゲンでは多くの枝分かれ構造があります。アミロペクチンよりも多くの枝分かれ構造をもつのがグリコーゲンです。

なおα-グルコースの重合によってグリコーゲンを得られるため、グリコーゲンはヨウ素デンプン反応を示します。また多糖類ではあるものの、デンプンやセルロースとは異なりグリコーゲンは水に溶けやすいです。

糖の種類と構成成分、性質を理解する

高校化学で有機化学・生化学を学ぶとき、糖の性質を必ず覚えることになります。糖は私たちにとって重要な栄養素であり、天然高分子化学や生化学では重要な分野です。

化学で糖を学ぶとき、糖の種類と構成成分を覚えましょう。単糖類にはグルコース(ブドウ糖)、フルクトース(果糖)、ガラクトース(脳糖)があります。これが糖の最小単位です。

また2つの単糖類がグリコシド結合でつながると二糖類になります。二糖類の種類と二糖類を構成している単糖類を学びましょう。また、二糖類の中でスクロース(ショ糖)は還元性を示さない事実を覚えるのは重要です。

なお単糖類が多数連なると多糖類になります。多糖類で重要な化合物はデンプン、セルロース、グリコーゲンであり、どれも構成成分はグルコースです。

覚えなければいけない糖の種類は多いです。ただ有機化学・生化学ではどの糖も重要なので、それぞれの性質を理解しましょう。