数学の中でも、完全なる暗記科目となるのが漸化式です。解き方を覚えていれば答えを得ることができるものの、解き方を覚えていなければ答えを得ることができません。これは、分数形の漸化式も同様です。
分数形の漸化式では逆数を利用します。ただ、単に逆数を利用して計算するのではなく、特性方程式を利用しなければいけないケースがあります。
特性方程式を利用しなければいけない分数形の漸化式では、解き方に2つのパターンがあります。答えを得るためには、それぞれの解き方を覚えましょう。
それでは、どのように分数形の漸化式を解けばいいのでしょうか。逆数や特性方程式を利用して一般項を得る方法を解説していきます。
もくじ
逆数を利用して数列の問題を解く分数形の漸化式
逆数形の漸化式で最も単純なのは、分子にa_nのみが存在するケースです。この場合、逆数を利用することによって容易に一般項を得ることができます。
例えば、以下の問題の答えは何でしょうか。
- a_1=1、a_{n+1}=\displaystyle\frac{a_n}{2a_n+1}によって定められる数列\{a_n\}の一般項を求めましょう。
問題文の漸化式では、分子に含まれる要素はa_nのみです。この場合、逆数を利用することによって以下の式を作りましょう。
- \displaystyle\frac{1}{a_{n+1}}=\displaystyle\frac{1}{a_n}+2
数列\left\{\displaystyle\frac{1}{a_n}\right\}というのは、初項\displaystyle\frac{1}{a_1}=1、公差2の等差数列です。そのため、以下のように計算できます。
\displaystyle\frac{1}{a_n}=1+(n-1)2
\displaystyle\frac{1}{a_n}=2n-1
a_n=\displaystyle\frac{1}{2n-1}
こうして、逆数を利用することによって答えを得ることができました。
分数形の漸化式の解き方と特性方程式
ただ分数形の漸化式では、逆数を利用するだけでは答えを得られないケースがあります。例えば以下のように、分子にa_nだけでなく、足し算または引き算が含まれているケースが該当します。
- a_{n+1}=\displaystyle\frac{a_n-9}{a_n-5}
この場合、特性方程式を利用して漸化式を等差数列型、または等比数列型へ変形しなければいけません。このとき、以下の2種類に分けて計算する必要があります。
- 特性方程式が重解をもつ
- 特性方程式が異なる2つの解をもつ
解き方が異なるため、それぞれの方法を理解しましょう。
特性方程式が重解をもつケースの計算
漸化式は解き方が決まっているため、例題を利用することで答えの導出法を覚えるのが効率的です。そこで以下の問題を解くことにより、特性方程式が重解をもつとき、どのように一般項を得ればいいのか学びましょう。
- a_1=8、a_{n+1}=\displaystyle\frac{a_n-9}{a_n-5}によって定められる数列\{a_n\}の一般項を求めましょう。
特性方程式を利用するとき、a_{n+1}=x、a_n=xと置き換えます。そこで、a_{n+1}=\displaystyle\frac{a_n-9}{a_n-5}を利用して以下の計算をしましょう。
x=\displaystyle\frac{x-9}{x-5}
x(x-5)=x-9
x^2-6x+9=0
(x-3)^2=0
こうして、x=3になるとわかりました。
特性方程式が重解αをもつ場合、a_{n+1}=\displaystyle\frac{ra_n-s}{pa_n-q}に対して、以下の式を作ります。
- a_{n+1}-α=\displaystyle\frac{ra_n-s}{pa_n-q}-α
そこで、a_{n+1}=\displaystyle\frac{a_n-9}{a_n-5}とx=3を利用して以下のように計算しましょう。
a_{n+1}-3=\displaystyle\frac{a_n-9}{a_n-5}-3
a_{n+1}-3=\displaystyle\frac{a_n-9}{a_n-5}-\displaystyle\frac{3(a_n-5)}{a_n-5}
a_{n+1}-3=\displaystyle\frac{-2a_n+6}{a_n-5}
a_{n+1}-3=\displaystyle\frac{-2(a_n-3)}{a_n-5}
こうして、特性方程式を利用することで漸化式を変形できました。
背理法を利用し、逆数の分母がゼロにならないことを証明する
次に、逆数を利用することで計算しましょう。つまり、以下の式を利用します。
\displaystyle\frac{1}{a_{n+1}-3}=\displaystyle\frac{a_n-5}{-2(a_n-3)}
ただ逆数を利用するためには、分母がゼロだと不適です。そのため、a_n≠3であることを証明しなければいけません。そこで、背理法を利用してa_n≠3を証明しましょう。
a_{n+1}=3とすると、a_{n+1}-3=0です。つまり、以下のように計算できます。
0=\displaystyle\frac{-2(a_n-3)}{a_n-5}
0=-2(a_n-3)
a_n=3
そのため、以下のようになります。
- a_{n+1}=a_n=…=a_1=3
ただa_1=8であるため、矛盾します。そのため、a_n≠3です。
逆数を利用して一般項を得る
a_n≠3を証明できたため、逆数を利用できます。そこで、以下のように計算しましょう。
\displaystyle\frac{1}{a_{n+1}-3}=\displaystyle\frac{a_n-5}{-2(a_n-3)}
\displaystyle\frac{1}{a_{n+1}-3}=\displaystyle\frac{(a_n-3)-2}{-2(a_n-3)}
\displaystyle\frac{1}{a_{n+1}-3}=\displaystyle\frac{1}{a_n-3}-\displaystyle\frac{1}{2}
こうして、数列\left\{\displaystyle\frac{1}{a_n-3}\right\}は初項\displaystyle\frac{1}{a_1-3}=\displaystyle\frac{1}{5}、公差-\displaystyle\frac{1}{2}の等差数列とわかります。そのため、以下の式を作れます。
\displaystyle\frac{1}{a_n-3}=\displaystyle\frac{1}{5}+(n-1)·-\displaystyle\frac{1}{2}
\displaystyle\frac{1}{a_n-3}=\displaystyle\frac{7-5n}{10}
a_n-3=\displaystyle\frac{10}{7-5n}
a_n=\displaystyle\frac{10}{7-5n}+3
a_n=\displaystyle\frac{31-15n}{7-5n}
こうして、特性方程式が重解をもつ場合について、分数形の漸化式の一般項を得ることができました。
特性方程式が異なる2つの解をもつ場合の解き方
次に、特性方程式が異なる2つの解をもつ場合の一般項の計算方法を学びましょう。以下の練習問題を解くことで一般項の計算方法を確認していきます。
- a_1=3、a_{n+1}=\displaystyle\frac{4a_n-2}{a_n+1}によって定められる数列\{a_n\}の一般項を求めましょう。
特性方程式を利用することによって答えを得るという方針は同じです。そこでa_{n+1}=x、a_n=xと置き換えましょう。
x=\displaystyle\frac{4x-2}{x+1}
x(x+1)=4x-2
x^2-3x+2=0
(x-1)(x-2)=0
こうして、x=1,2とわかりました。なお特性方程式がαとβを解にもつ場合、以下の式を作ります。
- b_n=\displaystyle\frac{a_n-α}{a_n-β}
特性方程式が2つの解をもつ場合、必ずこの形へ変形しましょう。
等比数列型へ変形し、一般項を得る
x=1,2であるため、以下のように式を作ることができます。
- b_n=\displaystyle\frac{a_n-1}{a_n-2}
なおnをn+1に変えると以下のようになります。
- b_{n+1}=\displaystyle\frac{a_{n+1}-1}{a_{n+1}-2}
a_{n+1}=\displaystyle\frac{4a_n-2}{a_n+1}であるため、b_{n+1}=\displaystyle\frac{a_{n+1}-1}{a_{n+1}-2}へ代入しましょう。
b_{n+1}=\displaystyle\frac{a_{n+1}-1}{a_{n+1}-2}
b_{n+1}=\displaystyle\frac{\displaystyle\frac{4a_n-2}{a_n+1}-1}{\displaystyle\frac{4a_n-2}{a_n+1}-2}
b_{n+1}=\displaystyle\frac{3a_n-3}{2a_n-4}
b_{n+1}=\displaystyle\frac{3(a_n-1)}{2(a_n-2)}
b_{n+1}=\displaystyle\frac{3}{2}·\displaystyle\frac{a_n-1}{a_n-2}
b_{n+1}=\displaystyle\frac{3}{2}b_n
こうして、数列\{b_n\}は初項b_1=\displaystyle\frac{a_1-1}{a_1-2}=2、公比\displaystyle\frac{3}{2}の等比数列とわかります。このため、数列\{b_n\}の一般項は以下になります。
- b_n=2·\left(\displaystyle\frac{3}{2}\right)^{n-1}
またb_n=\displaystyle\frac{a_n-1}{a_n-2}であるため、以下のように式を変形しましょう。
b_n=\displaystyle\frac{a_n-1}{a_n-2}
b_n(a_n-2)=a_n-1
a_n·b_n-a_n=2b_n-1
a_n(b_n-1)=2b_n-1
a_n=\displaystyle\frac{2b_n-1}{b_n-1}
先ほど計算した通り、b_n=2·\left(\displaystyle\frac{3}{2}\right)^{n-1}であるため、この式を代入しましょう。
a_n=\displaystyle\frac{2b_n-1}{b_n-1}
a_n=\displaystyle\frac{2·2·\left(\displaystyle\frac{3}{2}\right)^{n-1}-1}{2·\left(\displaystyle\frac{3}{2}\right)^{n-1}-1}
a_n=\displaystyle\frac{4·3^{n-1}-2^{n-1}}{2·3^{n-1}-2^{n-1}}
こうして、答えを得ることができました。
特性方程式の解に着目して計算する
解き方を知っていない場合、漸化式で答えを得るのは難しいです。特に特性方程式を利用しなければいけない分数形の漸化式では、解き方を学ばずに一般項を計算するのは不可能に近いです。
特性方程式を利用する場合、2パターンに分けましょう。特性方程式が重解をもつ場合、漸化式を変形後、逆数を利用します。これによって等差数列型の漸化式を作ることができ、一般項を得られます。
一方で特性方程式が2つの異なる解をもつ場合、b_n=\displaystyle\frac{a_n-α}{a_n-β}を利用します。特殊な公式ではありますが、これを利用することで分数形の漸化式を変形できます。
分数形の漸化式は解き方が決まっています。そのため分数形の漸化式で一般項を得たい場合、ここで解説した方法にて計算しましょう。