官能基の性質を理解すれば、どのように化学反応させればいいのか理解できるようになります。有機化学で重要な官能基にアミンがあります。アミンを有する分子は非常に多く、最も一般的な置換基の一つだといえます。
アミノ基は塩基性の物質として知られており、求核剤として機能します。そのため求核置換反応で利用されますが、脱離基として利用されることもあります。アミノ基は特殊な脱離反応を起こし、アルケンを合成できるのです。
また、アミンと同じように求核置換反応と脱離反応で重要な官能基の一つがチオールです。有機化学反応の種類は似ているため、アミンと同時に学ぶことで効率的にチオールの性質を理解できます。
アミンとチオールは反応の種類が少ないです。また、複雑な反応機構ではなく理解しやすいです。そこで、アミンとチオールの反応性がどのようになっているのか解説していきます。
もくじ
アミンの性質とアミノ基の関係
まず、アミンとは何なのでしょうか。アミンとは、アンモニア(NH3)の水素原子がアルキル鎖に置換されている官能基を指します。アルキル鎖が窒素原子と結合している場合、アミンになると理解しましょう。
一般的に-NH2をアミノ基といいます。ただ、アミンは-NH2だけではありません。窒素原子に複数のアルキル鎖が結合している場合もアミンといいます。
またアミンは一般的に塩基性のため、H+(プロトン)を引き抜くことでカチオンを生成します。アンモニウムカチオンになることで、塩基性を示します。
なお一級アミン(アミノ基)や二級アミン(メチルアミノ基)、三級アミン(ジメチルアミノ基) の塩基性の強さはほぼ同じです。
ただ例外的に、ベンゼン環に結合しているアミノ基(アニリンなど)では、アルキル基に結合しているアミノ基に比べて塩基性が著しく劣ります。この理由としては、アミノ基の非共有電子対(ローンペア)が共鳴を起こすからです。
例えばアニリンでは、以下の共鳴構造を書くことができます。
このようにアミノ基にあるローンペアがベンゼン環に移動するため、アニリンはプロトンを受け取りにくくなります。その結果、ベンゼン環に結合しているアミノ基は塩基性が弱くなります。
求核剤として重要なアミノ基
それでは、アミノ基はどのような合成反応に利用されるのでしょうか。最も一般的なアミンの有機合成では、求核置換反応でアミノ基を利用します。
塩基性を有する化合物では、ほとんどで求核性をもちます。他の分子を攻撃することで、新たな結合を作ることができるのです。つまり、アミノ基を有する化合物は求核剤として利用されることが多いです。
アミノ基を求核剤として利用することで、一級アミンや二級アミン、三級アミンだけではなく、四級アンモニウム塩(四級アンモニウムカチオン)を合成することもできます。
例えば、三級アミンを利用することで以下のような四級アンモニウム塩を合成できます。
四級アンモニウム塩は殺菌剤や陰イオン交換樹脂など、あらゆる場面で利用されています。そのため、私たちの生活の中で多用されている置換基の一つです。
チオール(メルカプト基)やスルフィドは強力な求核剤
また求核剤としてはチオールも知られています。メルカプト基(-SH)をもつのがチオールです。メルカプト基があると、悪臭を放つことでも知られています。
チオールはアルコール(-OH)と似た性質を示すものの、求核性が非常に強いことが知られています。またアルコールに比べて酸性度が高いです。そのためアミンとは異なり、水溶液中では弱酸性を示します。ただ、優れた求核剤として利用されます。
チオールを求核置換反応させると、スルフィド結合(-S-)を作ることができます。以下のようになります。
酸素原子で分子がつながっている場合、官能基をエーテルといいます。それに対して、硫黄原子で炭素鎖がつながっている場合をスルフィドといいます。
・スルフィドは高い求核性があり、イオンを作る
またチオール(メルカプト基)は高い求核性があるため、スルフィドについても高い求核性があります。そのため、求核置換反応を起こすことでイオンを形成できます。
アミンについて、四級アンモニウムカチオンを作ることができると説明しました。同じように、スルフィドが求核攻撃することでアニオンを作るのです。例えば、以下のようになります。
エーテルは求核攻撃しません。一方で硫黄原子の場合、高い求核性があるためスルフィドが求核攻撃し、カチオンが生成されます。
四級アンモニウムカチオンは脱離基となる
一般的には、ここまで説明した求核剤としての性質が最も重要です。ただアミンの場合、脱離基としても利用されます。四級アンモニウムカチオンだと、脱離基として機能するのです。
通常、アミンが脱離基になることはできません。以下のアミンで脱離反応を起こすことはないと理解しましょう。
- 一級アミン(アミノ基)
- 二級アミン(メチルアミノ基)
- 三級アミン(ジメチルアミノ基)
塩基を加えたとき、脱離反応を起こすのではなく、水素(プロトン)が引き抜かれます。これが、これらの置換基が脱離基になることはない理由です。
アミンは塩基性物質として一般的に知られています。そのためより強力な塩基を加えたとしても、共役酸(プラスに荷電している状態)に結合しているプロトンがなくなるだけです。また、アミンは脱離機能が非常に低いため、脱離基にはなりません。
一方、四級アンモニウム化合物の場合はどうでしょうか。四級アンモニウムカチオンでは、プラスに荷電しているので活性化されています。さらに四級アンモニウムカチオンにはプロトンが結合しておらず、強力な塩基を加えたときにH+が引き抜かれることはありません。
そのため四級アンモニウム塩が分子内に存在する場合、強塩基を加えることで脱離反応が起こります。以下のようになります。
通常は脱離基にならないアミンですが、四級アンモニウムカチオンの場合は例外的に優れた脱離基になります。分子内にアミンを有する場合、四級アンモニウムカチオンを合成することで脱離反応させ、二重結合をもつ化合物を合成できます。
ホフマン脱離による脱離反応が四級アンモニウムカチオン
なお脱離反応(E1反応やE2反応)の中でも、四級アンモニウムカチオンを用いた脱離反応ではホフマン脱離(Hofmann脱離)が起こります。塩基がプロトンを引き抜くことで脱離反応するとき、以下の2種類の反応機構が存在します。
一般的には、脱離反応はザイツェフ則(Saytzeff則)に従います。塩基は「置換基の多い炭素原子に結合している水素原子」を攻撃し、多置換アルケンが生成されます。
ただ四級アンモニウムカチオンをもつ分子の場合、ザイツェフ則に従いません。脱離反応によって二重結合が生成されるとき、「置換基の少ない炭素原子に結合しているプロトン」が引き抜かれます。これがホフマン脱離であり、以下のような反応機構になります。
ザイツェフ則ではなくホフマン脱離になるのは、第四級アンモニウム塩が非常にかさ高いからです。立体障害により、塩基は分子の内部に入ることができません。そこで、分子の外側に存在する水素原子を引き抜き、脱離反応を起こします。
スルフィドはSN2反応での脱離基になる
アミンが脱離基として機能するのと同じように、スルフィドも脱離基になります。前述の通り、スルフィドは求核性が高いため、第四級アンモニウム塩と同じように、求核攻撃することでイオンを作ることができます。
イオンとしてプラスの電荷を帯びている場合、脱離基になることができます。官能基が活性化されているため、塩基(求核剤)を加えることで合成反応が進行するのです。
スルフィドについては、SN2反応による脱離基として利用されます。求核剤が攻撃することで、以下のような反応を起こします。
第四級アンモニウム塩とは異なり、スルフィドは脱離反応(アルケンの生成)には適していません。そのため二重結合を作るのではなく、求核置換反応によって合成させたい場合に利用するといいです。
アミンとチオールの性質を学ぶ
求核置換反応や脱離反応を起こす官能基として、アミンとチオールが知られています。一般的には、これらの官能基はSN1反応やSN2反応などを起こす求核剤として用いられます。
ただ、アミンは四級アンモニウム化合物を作ることができます。スルフィドについても、プラスの電荷を帯びたイオンを合成できます。プラスの電荷を帯びることで活性化されている場合、脱離基として働くことができます。
アミンではホフマン脱離によって二重結合のあるアルケンを合成できます。スルフィドであれば、SN2反応によって求核置換反応を起こすことができます。
アミンとチオールには、これらの性質があります。難しい性質ではないため、どのように合成反応が起こるのか理解するようにしましょう。