無機化学で重要な分野の一つにハロゲンがあります。ハロゲンを含む物質は私たちにとって身近であり、多くの場面で利用されています。例えば塩素系漂白剤には塩素が深く関与しており、殺菌・消毒や漂白が可能になります。

ハロゲンにはフッ素・塩素・臭素・ヨウ素があります。これらの元素はすべて重要であり、それぞれの特徴を理解しなければいけません。共通する特徴があれば、個別に覚えなければいけない性質もあります。

またハロゲン(17族)を学ぶとき、同時にハロゲン化水素の性質も理解しましょう。無機化学で特に重要なハロゲン化水素はフッ化水素と塩化水素です。

それでは、ハロゲンにはどのような性質があるのでしょうか。ここでは、ハロゲンがもつ特徴を解説していきます。

ハロゲン(17族元素)にはフッ素・塩素・臭素・ヨウ素がある

まず、元素周期表でハロゲンの位置を確認しましょう。ハロゲンは17族元素であり、以下の場所にあるのがハロゲンです。

希ガスに対して、一つ左に位置しているのがハロゲンです。元素周期表を覚えるとき、通常は水素(H)からカルシウム(Ca)までを理解していれば十分です。ただハロゲンについては、例外的に臭素(Br)とヨウ素(I)も覚えましょう。

なお、ハロゲンは2つの原子が共有結合することによって存在しています。以下のようになります。

  • フッ素:F2
  • 塩素:Cl2
  • 臭素:Br2
  • ヨウ素:I2

これについては酸素や窒素と同じなので、容易に理解できると思います。

酸化力があり、有色で毒性のある元素がハロゲン

それでは、ハロゲンの特徴には何があるのでしょうか。ハロゲンで必ず理解しなければいけない特徴として、酸化力を有することがあげられます。つまり、ハロゲンは酸化剤としての働きがあります。

酸化剤は相手から電子を奪います。酸化力はハロゲンによって異なり、以下の順番になります。

  • F2 > Cl2 > Br2 > I2

つまりハロゲンの中では、フッ素の酸化力が最も強いです。一方、元素周期表の下に行くほど酸化力は弱くなります。

酸化力の強さは電気陰性度と関係しています。フッ素は最も電気陰性度の強い元素です。そのため酸化力も最も強い元素です。また元素周期表の下に行くほど電気陰性度が弱くなるため、結果として酸化力も弱くなります。

なお酸化力があるというのは、反応性が高く、有毒であることを意味しています。私たちの細胞は酸化されると機能しなくなるため、フッ素や塩素は毒ガスでもあるのです。このとき、ハロゲンの色や常温での状態は以下のようになっています。

フッ素:F2塩素:Cl2臭素:Br2ヨウ素:I2
淡黄色黄緑色赤褐色黒紫色
状態気体気体液体固体

分子量が大きいほどファンデルワールス力(分子間力)が強くなります。そのためヨウ素は分子間力が強く、ほかのハロゲンよりも分子同士の引力が強く働き、固体として存在するのです。

また分子量が小さくなるほどファンデルワールス力は弱くなるため、臭素では液体で存在し、さらに分子量の小さい塩素やフッ素では気体で存在します。色は覚えなければいけないものの、分子の状態は分子量の大きさを確認することで理解できます。

同じハロゲンでは、酸化力が強いと電子を奪って陰イオンになる

先ほど、酸化力の強さについて解説しました。酸化力の違いによって、酸化力の強いハロゲンは他のハロゲン化合物から電子を奪う性質があります。

電子eはマイナスの電荷を帯びているため、電子を奪うとハロゲンの酸化数はマイナスになります。例えばフッ素と塩素を比べると、フッ素のほうが酸化力は強いです。そのためフッ素分子F2と塩化カリウムKClを反応させると、以下のように反応が進みます。

塩素から電子を奪い、酸化することによってフッ素分子はフッ化カリウムとなります。

一方、酸化力の弱い元素の場合、酸化力の強い元素から電子を奪うことはできません。例えば、Br2とKClを混ぜるとき、以下の反応は進行しません。

ハロゲン同士が反応するかどうかを確認するとき、酸化力の強さを比較しましょう。酸化力の強さを確認すれば、臭素Br2と塩化カリウムKClを混ぜても反応が進まない理由がわかります。

沸点・融点は原子番号が大きいと高くなる

また先ほど、常温での状態について解説しました。ヨウ素は常温で固体であり、臭素は液体、塩素とフッ素は気体です。

これはつまり、ハロゲンによって沸点・融点が異なることを意味しています。ヨウ素は分子量が大きく、ファンデルワールス力(分子間力)が強いため、前述の通り固体になります。また分子同士の引力が強いというのは、多少のエネルギーを加えても気体にならないことを意味しています。

つまり分子間力が大きいと、その分だけ沸点・融点が高くなります。そのため、以下の順番は分子間力の強さ(分子量の大きさ)であると共に、沸点・融点の大きい順でもあります。

  • I2 > Br2 > Cl2 > F2

多くの人は無機化学を暗記科目と考えます。しかし実は違っており、無機化学は性質を理解する学問です。なぜそうなるのかを学べば、暗記しなくても物質の性質がわかるようになります。

それぞれのハロゲンの特徴

次に、それぞれのハロゲンの特徴を学びましょう。どのハロゲンも酸化力があり、有毒であるのは共通しています。ただ、ハロゲンによってそれぞれ特徴があります。

そこで、2つの原子が共有結合している以下の分子についてそれぞれ確認していきましょう。

  • フッ素:F2
  • 塩素:Cl2
  • 臭素:Br2
  • ヨウ素:I2

まずは、フッ素から学んでいきます。

フッ素は淡黄色の気体であり、最も酸化力が強い

フッ素は刺激臭のある淡黄色の気体です。最も強い電気陰性度を有する元素であるため、最も酸化力の強い元素でもあります。相手を酸化させる力が強力であるため、フッ素の毒性は高いです。

酸化力が強いというのは、反応性が強いことを意味しています。つまり、多くの化合物と化学反応を起こすのです。相手の電子を奪うことによって、酸化反応を起こすのがフッ素です。

例えば、フッ素は水と反応することでフッ化水素が生成されます。

  • 2F2 + 2H2O → 4HF + O2

フッ素の性質はハロゲン共通の性質を学ぶときに既に解説しています。そのため、理解するのは難しくないと思います。

塩素は黄緑色の気体で酸化力が強く、水と反応して次亜塩素酸を生じる

ハロゲンで最も重要な元素が塩素です。ハロゲンの中では、塩素が私たちの生活で最も利用されているからです。例えば塩化ナトリウムは塩素を含んでいますし、塩化水素も塩素を含んでいます。それでは、塩素分子Cl2の性質には何があるのでしょうか。

塩素は有毒であり、刺激臭のある黄緑色の気体です。酸化力が強いため、多くの物質と反応します。例えばさまざまな種類の金属と反応することによって、塩素は金属を酸化させます。

  • Cu + Cl2 → CuCl2

また塩素は酸化力がヨウ素よりも強いため、ヨウ化カリウムと反応することで塩化カリウムを生成させます。例えばヨウ化カリウムデンプン紙と反応すると、紙を青色に変えます。

  • Cl2 + 2KI → 2KCl + I2

なぜヨウ化カリウムデンプン紙が青色に変わるかというと、ヨウ素が黒紫色だからです。ヨウ素が固体であり、黒紫色であることを思い出せば、なぜヨウ化カリウムデンプン紙が青色になるのか理解できます。

さらに、塩素は光を当てると水素と反応することで塩化水素を生じます。

  • Cl2 + H2 → 2HCl

なお塩素を水に溶かす場合、少し水に溶けます。Cl2が溶けている水を塩素水といいます。塩素は酸化力が強いため、水を酸化することで次亜塩素酸(HClO)を生成します。

  • Cl2 + H2O → HCl + HClO

次亜塩素酸は塩素系漂白剤の主成分であり、スーパーで購入できます。次亜塩素酸は酸化力が非常に強く、強力な漂白・殺菌作用があります。塩素分子(Cl2)も漂白・殺菌作用があるものの、塩素は有毒ガスなので日常では利用できません。そこで水に溶けている次亜塩素酸が利用されるのです。

参考までに、以下は私が塩素系漂白剤(次亜塩素酸を含む水)を使い、ベッドのシーツを洗った後の様子です。

元々は薄い水色のシーツでした。それが、塩素系漂白剤によって色が落ち、一部が白色になっているとわかります。次亜塩素酸が色素を酸化することによって分解し、結果として色がなくなったのです。

私が塩素系漂白剤を利用した理由は、ある日、私の娘が私のベッドで嘔吐し、シーツに強烈な臭いがしみついてしまったからです。一般的な洗剤を利用しても嘔吐の色や臭いが落ちなかったため、塩素系漂白剤を利用しました。そうするとシーツの薄い水色は落ちてしまったものの、嘔吐後の色や臭いも完全に取り去ることができました。

次亜塩素酸の酸化力は非常に強く、さらには液体であるため、漂白や殺菌をするときに多くの日常場面で役立つのです。

なお塩素系漂白剤(次亜塩素酸)と酸性洗剤を混ぜると危険であることは広く知られています。この理由は有毒ガスである塩素Cl2が発生するからです。

塩素の実験的製法:酸化マンガンと濃硫酸を利用する

次に塩素Cl2の製法を確認しましょう。塩素を発生させるとき、酸化マンガン(Ⅳ)に濃塩酸を加え、加熱することによって得られます。このとき、化学反応式は以下のようになります。

  • MnO2 + 4HCl → MnCl2 + 2H2O + Cl2

このとき利用する装置は以下のようになります。

前述の通り、MnO2と濃HClを反応させるとCl2を生じます。ただHClは元々が気体であるため、濃塩酸に熱を加えるとHClも気体として出てきます。そこでH2Oに通すことによってHClを水に溶かします。HClは水によく溶けるものの、Cl2は一部溶けます。つまりHClは除去できるものの、大部分のCl2は水に溶けずに移動します。

次に、濃H2SO4へ通す理由は乾燥させるためです。濃HClには水が含まれています。また、前述の通り水に通すことになるため、気体は水分を含んでいます。そこで濃H2SO4に気体を通しましょう。濃硫酸は水を捕まえる性質があるため、濃硫酸を通した気体には水が含まれません。

そのため、必ず「水→濃H2SO4」の順番にする必要があります。順番が逆(濃H2SO4→水)の場合、気体は水を含みます。

なおCl2は空気よりも重いです。そのため塩素を発生させた後、下方置換によって集めます。これが塩素の実験的製法になります。

臭素は液体、ヨウ素は昇華性のある固体

フッ素や塩素に比べると重要度は劣るものの、ハロゲンでは臭素とヨウ素も重要です。

臭素は赤褐色の液体です。非金属元素の中では、常温において液体で存在するのは臭素だけです。酸化力があり、刺激臭のある有毒な蒸気を発するのが臭素です。なお臭素は水に少し溶け、臭素水になります。臭素水には漂白・殺菌作用があります。

またヨウ素は昇華性のある黒紫色の固体です。液体を介さず、固体から気体になる例として、ヨウ素はひんぱんに利用されます。

ヨウ素は水に溶けません。一方、ヨウ化カリウム(KI)であれば水に溶けます。ヨウ化カリウム水溶液はヨウ素溶液とも呼ばれています。ヨウ素溶液にデンプン溶液を加えると青紫色になり、これをヨウ素デンプン反応といいます。

ハロゲン(17族)の化合物でハロゲン化水素は重要

ここまで、ハロゲン単体の性質を確認してきました。ただ無機化学でハロゲン(17族)の化合物を学ぶとき、ハロゲン化水素の性質も重要になります。ハロゲン化水素には以下の種類があります。

  • フッ化水素:HF
  • 塩化水素:HCl
  • 臭化水素:HBr
  • ヨウ化水素:HI

これらはすべて無色の気体であり、刺激臭があります。また、どれも水によく溶けます。なおハロゲン化水素にHClを含んでいることからわかる通り、ハロゲン化水素は水に溶けるとすべて酸性を示します。

なおハロゲン化水素の中でも、特に重要なのがフッ化水素と塩化水素です。そこで、フッ化水素と塩化水素の特徴を確認しましょう。

フッ化水素は弱酸であり、水素結合によって沸点が高い

他のハロゲン化水素に比べて、フッ化水素には特殊な性質があります。通常、ハロゲン化水素は強酸です。塩化水素(HCl)が強酸であることからわかる通り、臭化水素(HBr)やヨウ化水素(HI)も強酸です。一方、フッ化水素は弱酸です。

酸性の強さは以下の順番になっています。

  • HF << HCl < HBr < HI

つまりフッ化水素は電離度が低く、水中でイオンになっている割合は少ないです。

また沸点・融点について、通常だと分子量が大きくなるほどファンデルワールス力(分子間力)が大きくなります。分子同士の引力が大きくなる結果、沸点・融点は高くなるのです。

フッ化水素はハロゲン化水素の中で最も分子量が小さいため、沸点・融点が低いと考えてしまいます。ただ実際には、ハロゲン化水素で沸点・融点の高い順に並べると以下のようになります。

  • HCl < HBr < HI << HF

つまり、ほかのハロゲン化水素に比べてフッ化水素は沸点・融点が高いです。それでは、なぜフッ化水素は弱酸であり、沸点・融点が高いのでしょうか。この理由に水素結合があります。

フッ素は最も電気陰性度が高い元素であるため、強く水素原子を引き付けます。その結果、フッ素はマイナスの電荷をもち、水素はプラスの電荷を帯びるようになります。

その結果、マイナスの電荷(フッ素原子)とプラスの電荷(水素原子)が互いに強く引き合います。これを水素結合と呼び、以下の図で赤い点線が水素結合に該当します。

フッ化水素は水素結合によって、ほかのフッ化水素を強く引き付けます。つまりファンデルワールス力とは別に強い引力を生じているため、ほかのハロゲン化水素よりも沸点・融点が高いのです。

またイオンとなってバラバラで存在するよりも、フッ化水素は水素結合による影響によって規則正しく並ぶ状態を好みます。そのため電離度が低く、弱酸の性質を示すのです。

・フッ化水素によるガラスの腐食

なお弱酸ではあるものの、フッ化水素の反応性は非常に高いです。つまり酸性の強さと反応性の高さには関係性がありません。

フッ化水素がもつ重要な性質として、ガラスを溶かす働きがあります。ガラスの主成分は二酸化ケイ素(SiO2)です。ガラスを腐食する作用があるため、フッ化水素はガラス工場では頻繁に利用されます。なお、フッ化水素が二酸化ケイ素と反応するとき、以下の化学反応式になります。

  • SiO2 + 6HF → H2SiF6 + 2H2O

フッ素は酸素よりも酸化力が強いです。そこで、フッ素が酸素を追い出すことでケイ素(Si)と結合します。またガラスを溶かすため、フッ化水素水を保存するときはポリエチレン容器を利用します。

・フッ化水素の実験的製法

ちなみに、フッ化水素の実験的製法としては、フッ化カルシウム(CaF2:ホタル石)に濃硫酸を加え、加熱することによって得ることができます。

  • CaF2 + H2SO4 → CaSO4 + 2HF

なおフッ化水素は猛毒です。フッ化水素は非常に透過性が高く、体内のカルシウムと結合してフッ化カルシウムを形成します。こうして組織が壊死したり、最悪の場合は死に至ったりします。そのため、フッ化水素を取り扱うときは注意が必要です。

塩化水素の性質とアンモニアとの反応

ハロゲン化水素として、フッ化水素と同様に重要な化合物が塩化水素です。塩化水素が水に溶けると塩酸となり、強酸水溶液として多くの場面で利用されます。

実験的製法としては、塩化ナトリウム(NaCl)に濃硫酸(H2SO4)を加え、加熱することで塩化水素を作ります。

  • NaCl + H2SO4 → HCl + NaHSO4

塩化水素は空気よりも重いため、下方置換によって集めます。なお塩化水素がアンモニアと触れると、白煙を生じます。この理由は、以下の反応によって塩化アンモニウム(NH4Cl)を生じるからです。

  • HCl + NH3 → NH4Cl

塩化水素は酸性であり、アンモニアは塩基性です。そのため塩化アンモニウム(白煙の原因)が生じる反応には中和反応が関わっています。

揮発性酸の遊離反応:フッ化水素と塩化水素の生成

なおフッ化水素と塩化水素が生成する反応について、揮発性酸の遊離が原理になっています。例えばNaClとH2SO4を混ぜる場合、以下の4つの化合物を生成する可能性があります。

  • NaCl
  • NaHSO4
  • HCl
  • H2SO4

この中で揮発性物質はHClのみです。そのため加熱すると、HClは気体として放出されます。そうすると、ルシャトリエの原理によってHClが生成されるように反応が傾きます。こうして、以下の反応が起こるのです。

  • NaCl + H2SO4 → HCl + NaHSO4

フッ化水素や塩化水素を得る方法では、揮発性酸の遊離反応を利用していることを理解しましょう。

ハロゲンの性質は無機化学で重要

酸化力が強く、強力な毒性をもつものの、非常に重要な元素にハロゲンがあります。ハロゲンにはフッ素や塩素、臭素、ヨウ素があります。

これらのハロゲンは多くの場面で利用されています。ハロゲンには酸化力が強い性質があるため、ほかの化合物と反応することで新たな化合物を生み出すことができるのです。

そこで、それぞれの元素ごとの特徴やハロゲンの共通点を学びましょう。ハロゲンを比較するとき、酸化力の強さや沸点・融点の違いを理解するのです。それに加えて、ハロゲン化水素の特徴も覚えましょう。ハロゲン化水素の中では、特にフッ化水素と塩化水素の性質が重要です。

ハロゲンは毒性が高いものの、私たちの身の回りにも身近に存在します。例えば、私たちはスーパーで手軽に塩素系漂白剤を購入し、漂白や殺菌で利用できます。ハロゲンの性質はさまざまな場面で活用されているのです。