有機化学の基礎を学ぶとき、炭化水素の構造を理解しなければいけません。一見すると同じ化合物であっても、異なる化合物であることは有機化学でひんぱんにあります。

有機化学で学ぶ概念に異性体があります。異性体には構造異性体と立体異性体があります。同じ化学式であっても、構造が異なるケースはよくあります。または、立体構造が違うために異なる分子であることもあります。

また立体異性体には幾何異性体と光学異性体があります。両方とも重要な概念であり、有機化学を学ぶときは必ず理解しなければいけません。

それでは、有機化学での構造異性体と立体異性体はどのように考えればいいのでしょうか。異性体の種類や性質を解説していきます。

構造が違うと化合物の名称が変わる

有機化学で最も単純な異性体が構造異性体です。化学式は同じであるものの、構造が異なる場合は構造異性体です。

例えばC5H12の構造は何でしょうか。直線の炭化水素の場合、化合物はペンタンです。

ただ、ペンタン以外にもC5H12となる有機化合物は存在します。以下のように、2-メチルブタンと2,2-ジメチルプロパンも化学式はC5H12です。

つまり、炭素Cがどの場所に存在するのかによって、同じ化学式であっても構造が異なるのです。これが構造異性体です。

単結合は自由に回転でき、同じ化合物であることは多い

それでは、構造異性体を学ぶときに注意するべき点には何があるのでしょうか。それは、単結合は自由に回転できることです。

自由に軸を回転させることができるため、一見すると異なる構造であっても、同じ化合物(同じ構造)であることは多いです。例えば、以下はすべて同じ化合物(2-メチルブタン)です。

単結合は自由に回転でき、最も長い鎖に着目するとすべての化合物で主鎖はブタン(炭素4つ)です。また、2番目の位置にメチル基が結合しています。

単結合での化合物の立体構造:正四面体構造

次に有機化合物の立体構造を学びましょう。同じ構造であっても、立体構造が異なるケースがあるからです。

炭素原子の価電子は4つです。これはつまり、炭素には4本の手があることを意味しています。炭素には4本の手があるため、4カ所でほかの原子と結合できます。そのためメタンでは、炭素が4本の手を使って水素と結合し、正四面体構造となっています。

アルカンというのは、単結合でつながることによって正四面体構造になっていると理解しましょう。

二重結合・三重結合は回転できない

それに対して二重結合(アルケン)や三重結合(アルキン)ではどのような構造になっているのでしょうか。二重結合では、炭素は二本の手を使って結合しています。また三重結合では、炭素は三本の手を使って結合しています。

単結合とは異なり、二本(または三本)の手によってつながっているため、二重結合や三重結合では軸の回転はできません。この場合、どのような立体構造となるのでしょうか。

二重結合をもつ化合物にエチレン(エテン)があります。エチレンの立体構造を確認すると、6つの原子(炭素原子と水素原子)はすべて同一平面上に存在します。

前述の通り二重結合は回転できないため、原子の位置は動きません。その結果、二重結合の周辺では一つの平面の上にすべての原子が存在します。

また三重結合についても、前述の通り軸は回転しません。なお三重結合では3つの手を利用して結合するため、残った一つの手を利用してほかの原子と結合します。

共有結合は電子を共有することで生じます。結合というのは、「マイナスの電荷を帯びている電子」でもあるのです。マイナスとマイナスの電荷をもつ物質は反発します。そのため三重結合では、残った一本の手は三重結合と反対の方向に手を出します。

こうして三重結合では、4つの原子が直線状に並びます。そのため、アセチレンは直線構造をしています。

アルケンとアルキンの構造異性体

それでは、アルケンとアルキンの構造異性体はどのように考えればいいのでしょうか。先にアルケンを確認しましょう。

アルケンは二重結合をもちます。そのため、二重結合の位置によって化合物が変わります。例えば、以下は同じ化学式であるものの、二重結合の位置が違う別の化合物です。

一方、以下の化合物は180°回転させると同じ構造になるため、同じ化合物です。

アルキンについても同様に考えましょう。三重結合の位置が違うと別の化合物です。そのため、以下の2つは異なる化合物です。

それに対して、180°反転させた以下の化合物は同じです。

二重結合や三重結合の位置が違う場合、異なる化合物です。ただ反転させて同じ位置となる場合、同じ化合物です。

二重結合をもつ化合物で重要な幾何異性体(シス・トランス)

なお二重結合には立体異性体があります。アルケンの場合、構造異性体に加えて立体異性体を考慮する必要があり、二重結合では幾何異性体が重要になります。

幾何異性体でひんぱんに利用される例が2-ブテンです。前述の通り、二重結合では軸の回転ができません。そのため2-ブテンの立体構造には以下の2種類があります。

仮に二重結合が回転できる場合、2つは同じ化合物です。ただ二重結合は回転できないため、上記の2つは異なる化合物なのです。

それでは、幾何異性体をどのように区別すればいいのでしょうか。幾何異性体では、官能基が同じ側にある場合をシス型といいます。一方、官能基が反対側にある場合をトランス型といいます。

幾何異性体により、2-ブテンは2種類あります。そのため、シス型ではcis(シス)を名前の前につけて、cis-2-ブテン(シス-2-ブテン)としましょう。またトランス型では、trans(トランス)を名前の前につけて、trans-2-ブテン(トランス-2-ブテン)とします。

アルケンの幾何異性体は最も一般的な立体異性体の一つなので、必ず理解しましょう。

単結合で需要になる光学異性体

なお、重要な立体異性体がもう一つあります。それは光学異性体です。幾何異性体は二重結合によって生じるものの、光学異性体は単結合によって生じます。

多くの人にとって光学異性体を理解しにくい理由は、構造式が完全に同じだからです。構造式が同一にも関わらず、立体構造が異なるのです。

それでは、どのようなときに光学異性体を生じるのでしょうか。一つの炭素原子に対して異なる4つの官能基(Hを含む)が結合している場合、光学異性体となります。例えば、以下の化合物は炭素に4つの異なる官能基が存在するため、光学異性体と判断できます。

平面で記すと、一種類の化合物のみ描けます。ただ現実世界では、化合物は立体で存在します。そのため平面ではなく、立体構造で考えなければいけません。また前述の通り、単結合のみの場合、炭素原子は正四面体構造となります。そのため、以下の2種類の立体構造を作れます。

このように、鏡写しの関係になっています。そのため、光学異性体は鏡像異性体とも呼ばれます。

・重ね合わせることができない鏡像異性体の概念

光学異性体(鏡像異性体)は同じ構造式であるものの、回転させても現実世界では重ね合わせることができません。ピッタリ同じ形になるよう重ね合わせることができないため、立体的に異なる化合物となるのです。

それでは、「重ね合わせることができない」とはどういう意味なのでしょうか。わかりやすい例として、左手と右手の関係があります。以下のように、左手と右手は鏡写しの関係にあります。

ただ、左手と右手を完全に重ね合わせることはできません。つまり左手と右手を同じ向きにすると、左手の親指の位置には、右手の小指が重なります。

立体構造が異なる場合、違う物質と考えて区別しなければいけません。前述の通り、化合物が存在するのは二次元ではなく、三次元の世界だからです。

光学異性体の特徴と不斉炭素原子

それでは、光学異性体の特徴には何があるのでしょうか。光学異性体(鏡像異性体)には、必ず不斉炭素原子があります。炭素原子に対して、4つの異なる官能基が結合している場合、その炭素原子を不斉炭素原子といいます。

光学異性体は異なる物質です。ただ似ている点が多く、物理的・科学的な特徴はほぼ同じです。例えば沸点や融点、密度、溶解度は同じです。

ただ異なる点もあります。例えば、においや味は光学異性体で違います。また光学異性体で特に重要になるのが生理作用と旋光性です。

生理作用とは、要は「薬として作用するときの働き」と理解しましょう。薬というのは、酵素など特定の物質と結合することで効果を発揮します。このとき立体構造が違うと、物質との結合ができなくなります。

光学異性体で有名な薬はサリドマイドです。サリドマイドには不斉炭素原子があり、構造の異なる2つの化合物が存在します。サリドマイドでは一方に催眠作用があり、もう一方に催奇形性(胎児に奇形をもたらす作用)がありました。これにより、薬害事件へと発展したのです。

また、光学異性体でもう一つ重要な違いが旋光性です。物理では、「光は波である」と学びます。このとき一方方向のみに振動する光(平面旋光)について、一つの光学異性体のみが存在する溶液中へ通すと、平面旋光は右向き(または左向き)に回転します。

なお平面旋光が右向きに回転する場合、もう一方の光学異性体を溶かした溶液中に光を通すと、平面旋光は左向きに回転します。光学異性体では、旋光性は必ず逆になります。

構造異性体と立体異性体(幾何異性体・光学異性体)を理解する

有機化学では異性体を考慮しなければいけません。同じ化学式であっても複数の化合物候補が存在することは多く、どの構造をもつ化合物なのか確認しなければいけません。

なお、有機化学で特に重要な異性体が立体異性体です。分子は立体で存在します。そのため構造式が同じであっても、立体が異なることはよくあります。

アルカンで重要なのが幾何異性体です。構造式に二重結合をもつ場合、シス型とトランス型に分けられる場合が多いです。また不斉炭素原子がある場合、その化合物には必ず光学異性体があります。光学異性体は別の化合物です。

どのようなとき、異性体を生じるのか理解しましょう。構造異性体と立体異性体の種類や特徴を学ぶのは有機化学で重要です。