原子によっては、放射線を放出することがあります。放射線が発生する原理を学ぶためには、原子の構造を理解する必要があります。そこで、原子核の内部構造がどうなっているのか知りましょう。

なお、放射線には種類があります。具体的にはα線、β線、γ線が放射線の種類であり、それぞれ透過性や電離作用が異なります。

また放射線崩壊が起こるとき、どれだけの速さで反応が進行するのかを表す指標に半減期があります。原子核の個数が半分になる時間が半減期です。半減期を利用することにより、どれだけの年数が経過したのか調べることができます。

放射線の性質を利用することにより、分析できることは多いです。そこで原子核の内部構造や放射線の性質、半減期について解説していきます。

原子核の内部構造を学ぶ

放射線が発生する仕組みを理解するためには、必ず原子核の内部構造を知らなければいけません。化学を学んでいる場合、原子核は陽子と中性子によって構成されていることを既に知っていると思います。また、電子は原子核の周囲を回っています。

電子は負の電荷をもちます。ただ、原子は電荷がありません。これは、原子は電子と同じ数の陽子をもつからです。陽子の電荷と電子の電荷を比べると、電気量の絶対値は同じです。陽子は正の電荷であるため、陽子の電気量\(+e\)と電子の電気量\(-e\)を合計することで原子の電荷はゼロになるのです。

なお中性子には電荷がないものの、質量があります。陽子と中性子の質量を比較すると以下のようになります。

  • 陽子:1.673×10-27kg
  • 中性子:1.675×10-27kg

このように、質量はほぼ同じです。また、電子の質量は陽子や中性子に比べて非常に小さいです。そのため、原子の重さは陽子と中性子の数によって決まるのです。

なお原子には表記法が存在します。元素記号に対して、左下に原子番号、左上に質量数を記載します。

原子番号は陽子の数(=電子の数)を表しています。また、前述の通り陽子の数と中性子の数を足すと原子の質量となります。そのため、質量数(陽子数+中性子数)から原子番号(陽子数)を引くと、中性子の数がわかります。

同位体(アイソトープ)と放射性同位体

なお、化学では同位体(アイソトープ)を学びます。同じ元素ではあるものの、質量数の異なる原子が同位体です。

同じ元素というのは、陽子数が同じであり、原子番号が一致することを意味しています。ただ、原子に含まれている中性子の数が異なる場合、質量数が違います。

例えば水素には3種類の同位体が存在すると知られています。以下のように、中性子がいくつ含まれているのかによって区別しなければいけません。

同位体では、物理的性質が異なります。例えば水素や重水素は放射線を放出しないものの、トリチウムは放射線を放出します。同位体の中には、放射線を放出するケースがあるのです。このような同位体を放射性同位体といいます。

放射性同位体は不安定な構造であるため、放射線を放出することによって安定な構造へと変化します。放射線の発生には、同位体が重要となるのです。

放射線の種類と性質:α線、β線、γ線

1896年、フランスの物理学者・化学者であるベクレルはウランから透過力の強い未知物質が発せられていることを発見しました。この「何か」が放射線であり、ベクレルは放射線の発見者として知られています。

放射線には、以下の2つの性質があります。

  • 電離作用:原子がもつ電子を弾き飛ばし、イオンにする
  • 透過:物質を通り抜ける

放射線が人体に対して悪影響があるのは、透過によって体内に入り、電離作用によって体内にある細胞が破壊されるからです。

なお、放射線には主に以下の3種類があります。

・α線:ヘリウムの原子核

ヘリウムの原子核がα線です。ヘリウムは原子番号が2であり、陽子を2つもちます。電子のないヘリウム(\(_2^4He\))がα線であるため、α線の電気量は\(+2e\)[C]です。α線は強い電離作用をもつ一方、透過力は弱いです。

・β線:電子

β線とは、要は電子のことです。電子の電気量は\(-e\)[C]であるため、β線の電気量は\(-e\)[C]です。α線と比べると、β線の電離作用は弱いです。それに対して、透過力はα線よりも高いです。

・γ線:電磁波

電磁波の一種がγ線です。X線は放射線の一種であり、電磁波の一種であることは知っていると思います。X線の波長がさらに短くなると、γ線と呼ばれるようになります。γ線はβ線よりも電離作用が弱いものの、透過力は強いです。

本体電離作用透過力
α線ヘリウムの原子核
β線電子
γ線電磁波

なお、この表を覚える必要はありません。物質の大きさを確認すれば、容易に理解できるからです。

α線はヘリウム原子核であるため、電荷が大きいです。そのためβ線やγ線に比べて、物体と衝突するときの影響が大きいです。つまり、電離作用が強いです。一方、γ線には電荷がないので電離作用は弱いです。

ただα線は大きい物体です。そのためβ線に比べて透過力が弱いです。またβ線は電子であるため、電磁波であるγ線よりも透過力が弱いです。物体がもつ電荷や大きさを確認すれば、電離作用の大きさや透過力を容易に判断できます。

α線やβ線には電荷があるため、磁場をかけるとローレンツ力によって軌道が変化します。なお、放射線にはX線や中性子線も含まれます。こうした放射線の中でも、特に重要な放射線がα線、β線、γ線です。

参考までに、放射線を出す能力を放射能といいます。また、放射能をもつ物質を放射性物質といいます。

放射線崩壊:α崩壊、β崩壊、γ崩壊

化学反応では、原子が変化することはありません。あくまでも、化学結合が変化するだけです。ただ放射線が放出される場合、放射線崩壊によって元素が変化します。放射線崩壊には以下の種類があります。

・α崩壊

原子核がα線を出す現象をα崩壊といいます。つまり陽子2つ、中性子2つを放出することにより、対応する原子に変化するのです。例えばウラン238がα崩壊する場合、以下の反応が起こります。

  • \(^{238}_{92}U→^{234}_{90}Th+^4_2He\)

このようにα崩壊では原子番号(陽子数)が2つ減り、質量数は4つ減ります。ウラン\(U\)がα崩壊を起こすとトリウム\(Th\)へと変化するのです。

・ベータ崩壊

原子核が電子(β線)を放出する現象をβ崩壊といいます。原子核の周囲に存在する電子が放出されるのではなく、原子核の中から電子が放出される点に注意しましょう。

原子核に存在するのは陽子と中性子であり、電子は存在しません。それにも関わらず、どのようにして原子核は電子としてβ線を放出するのでしょうか。実は、中性子が陽子と電子に変わることでβ線が放出されるのです。

中性子と陽子は質量がほぼ同じであるため、質量数に変化はありません。ただ陽子が一つ増えるため、β崩壊によって原子番号が一つ増えます。例えば鉛210がβ崩壊すると、原子番号が一つ増えてビスマス(Bi)へと変化します。

  • \(^{210}_{82}Pb→^{210}_{83}Bi+e\)

α崩壊では原子番号が2つ減るのに対して、ベータ崩壊では原子番号が1つ増えるのです。

・γ崩壊

γ線を出す現象がγ崩壊です。γ崩壊では電磁波が出るだけなので、α崩壊やβ崩壊とは異なり、原子番号の変化はありません。

α崩壊やβ崩壊が起こった後、原子は高いエネルギーをもつことが多いです。そこで電磁波(γ線)としてエネルギーを放出することにより、保有するエネルギーを低くするのです。

半減期:原子核が半分になる時間

それでは、どれくらいのスピードでα崩壊やβ崩壊が起こるのでしょうか。α崩壊やβ崩壊が起こると、原子核が崩壊することで元素の種類が変化します。このとき、原子核が半分に減る時間を半減期といいます。

放射能をもつ原子であっても、放射線を出しているとは限りません。放射線を出しているかもしれませんし、出していないかもしれません。α崩壊やβ崩壊が起これば放射線が出るものの、これらの現象が起こらなければ、放射能があっても放射線は発せられないのです。

1分後に原子核が崩壊することがあれば、10年が経過しても原子核が崩壊しないこともあります。原子核の崩壊が起こるかどうかは確率によって決まります。そこで半減期を確認すれば、どれだけの速さで原子核が崩壊するのか把握できます。

例えば半減期が24時間であれば、24時間後には半分の放射性物質が崩壊し、別の元素へ変わっていると推測できます。また、さらに24時間が経過すると、残った放射性物質のうち半分が他の元素へ変わっていると推測できます。

そこで、元々の放射性物質の個数を\(N_0\)、半減期を\(T\)とします。この場合、時間\(T\)が経過すると、放射性物質の個数は\(\displaystyle\frac{N_0}{2}\)になります。

また、さらに時間\(T\)(合計\(2T\))が経過すると、放射性物質の数は\(\displaystyle\frac{N_0}{2}\)の半分である\(\displaystyle\frac{N_0}{4}\)となります。ここからさらに時間\(T\)(合計\(3T\))が経過すると、放射性物質の数は\(\displaystyle\frac{N_0}{4}\)の半分である\(\displaystyle\frac{N_0}{8}\)となります。

そこで原子の数を\(N\)、経過時間を\(t\)とすると、以下の関係が成り立ちます。

  • \(N=N_0\left(\displaystyle\frac{1}{2}\right)^{\displaystyle\frac{t}{T}}\)

なお、この公式を覚える必要はありません。半減期\(T\)が経過すると、原子核の量が半分に減ることを理解すれば、公式を利用しなくても式を作ることができます。

ちなみに、半減期\(T\)は原子核が半分になる時間であるため、どの時点から測定したとしても、半減期\(T\)が経過すると原子核の量は半分になります。また、\(2T\)の時間が経過すると、原子核の量は4分の1になります。これが半減期の意味です。

それでは、以下の問題の答えは何でしょうか。

  • 半減期10年でβ崩壊を起こし、安定な原子核へと変化する放射性物質について、存在比が10分の1になる時間はいくらですか。なお、\(log_{10}2=0.301\)です。

物質の量は10年後に\(\displaystyle\frac{1}{2}\)、20年後に\(\displaystyle\frac{1}{4}\)、30年後に\(\displaystyle\frac{1}{8}\)となります。そこで経過時間を\(t\)とすると、この条件を満たすには以下の式を作ればいいとわかります。

  • \(\displaystyle\frac{1}{10}=\left(\displaystyle\frac{1}{2}\right)^{\displaystyle\frac{t}{10}}\)

そこで、この式を計算しましょう。

\(\displaystyle\frac{1}{10}=\left(\displaystyle\frac{1}{2}\right)^{\displaystyle\frac{t}{10}}\)

\(log_{10}\displaystyle\frac{1}{10}=log_{10}\left(\displaystyle\frac{1}{2}\right)^{\displaystyle\frac{t}{10}}\)

\(-1=\displaystyle\frac{t}{10}log_{10}\left(\displaystyle\frac{1}{2}\right)\)

\(-1=-\displaystyle\frac{t}{10}log_{10}2\)

\(1=\displaystyle\frac{t×0.301}{10}\)

\(t≒33.2\)

こうして、放射性物質の量が10分の1になる時間は33.2年とわかります。

半減期が10年であるため、30年が経過すると放射性物質の量は8分の1になります。また、40年が経過すると放射性物質の量は16分の1になります。そのため、33.2年が経過すると放射性物質の量が10分の1になるのは適切な答えであると推測できます。

放射線の性質と半減期の概念を知る

同位体の中には不安定な物質が存在します。こうした物質はα崩壊やβ崩壊、γ崩壊を起こすことによって放射線を発します。

ヘリウムの原子核がα線であり、電子がβ線です。また、電磁波がγ線です。この事実を理解すれば、透過力と電離作用の強さがどのような順番になっているのかわかります。

またα崩壊やβ崩壊を起こすと、陽子の数が変化するので原子番号が変化します。化学反応では元素の変化が起こらないものの、放射線を発するときは元素の変化を伴うケースがあるのです。そこで、陽子数や質量数がどのように変わるのか学びましょう。

なお、放射線崩壊が起こるスピードを表すのが半減期です。半減期を利用して、放射性物質の残存量や経過年数を計算できるようになる必要があります。これら原子の性質を理解することにより、放射線が発生するときに何が起こるのかわかるようになります。