三角関数では、和と積を変換することができます。足し算をかけ算に変えたり、かけ算を足し算に変えたりできるのです。公式を利用することにより、式を変形できます。

三角関数の和と積の公式を覚えてはいけません。加法定理を利用することにより、必要に応じて式を作りましょう。加法定理が関わる公式は多いため、すべての公式を覚えるのではなく、公式を導出できるようになる必要があります。

なお三角関数の和と積の公式を利用すれば、複雑な三角関数の計算をすることができたり、証明問題を解けたりできるようになります。

それでは、どのように三角関数の和と積の公式を作ればいいのでしょうか。また、どのように三角関数の問題を解けばいいのでしょうか。三角関数の足し算とかけ算を変形する方法や計算方法を解説していきます。

加法定理を利用し、三角関数の和と積の公式を導出する

三角関数について、足し算とかけ算を変換するためには、公式を利用しなければいけません。まず、かけ算を足し算に変える公式を確認しましょう。公式は以下になります。

  • \(sinαcosβ=\displaystyle\frac{1}{2}(sin(α+β)\)\(+sin(α-β))\)
  • \(cosαsinβ=\displaystyle\frac{1}{2}(sin(α+β)\)\(-sin(α-β))\)
  • \(cosαcosβ=\displaystyle\frac{1}{2}(cos(α+β)\)\(+cos(α-β))\)
  • \(sinαsinβ=-\displaystyle\frac{1}{2}(cos(α+β)\)\(-cos(α-β))\)

前述の通り、これらの公式を覚えてはいけません。加法定理を用いて公式の導出が可能であるため、公式の作り方を学びましょう。加法定理より、以下のようになります。

  • \(sin(α+β)=sinαcosβ+cosαsinβ\) – ①
  • \(sin(α-β)=sinαcosβ-cosαsinβ\) – ②

\(①+②\)より、以下のようになります。

\(sin(α+β)+sin(α-β)=2sinαcosβ\)

\(sinαcosβ=\displaystyle\frac{1}{2}(sin(α+β)+sin(α-β))\)

こうして、公式を得ることができました。また\(①-②\)により、以下の公式を得られます。

  • \(cosαsinβ=\displaystyle\frac{1}{2}(sin(α+β)\)\(-sin(α-β))\)

次に、以下の加法定理を利用しましょう。

  • \(cos(α+β)=cosαcosβ-sinαsinβ\) – ③
  • \(cos(α-β)=cosαcosβ+sinαsinβ\) – ④

\(③+④\)により、以下の公式を得られます。

\(cos(α+β)+cos(α-β)=2cosαcosβ\)

\(cosαcosβ=\displaystyle\frac{1}{2}(cos(α+β)+cos(α-β))\)

こうして、公式を得ることができました。同様に\(③-④\)により、以下の公式を得られます。

  • \(sinαsinβ=-\displaystyle\frac{1}{2}(cos(α+β)\)\(-cos(α-β))\)

簡単な計算により、公式を作ることができます。これが、三角関数の和と積の公式を覚える必要がない理由です。

和を積に変換する公式の導出

次に、足し算をかけ算に変換できるようになりましょう。先ほどの公式を利用すれば、容易に公式を作ることができます。

\(α+β=A\)、\(α-β=B\)としましょう。この場合、\(α=\displaystyle\frac{A+B}{2}\)であり、\(β=\displaystyle\frac{A-B}{2}\)です。そこで、先ほどの公式に代入すると以下のようになります。

  • \(sin\displaystyle\frac{A+B}{2}cos\displaystyle\frac{A-B}{2}=\displaystyle\frac{1}{2}(sinA\)\(+sinB)\)
  • \(cos\displaystyle\frac{A+B}{2}sin\displaystyle\frac{A-B}{2}=\displaystyle\frac{1}{2}(sinA\)\(-sinB)\)
  • \(cos\displaystyle\frac{A+B}{2}cos\displaystyle\frac{A-B}{2}=\displaystyle\frac{1}{2}(cosA\)\(+cosB)\)
  • \(sin\displaystyle\frac{A+B}{2}sin\displaystyle\frac{A-B}{2}=\displaystyle\frac{1}{2}(cosA\)\(-cosB)\)

式を整理すると、以下のようになります。

  • \(sinA+sinB=2sin\displaystyle\frac{A+B}{2}\)\(cos\displaystyle\frac{A-B}{2}\)
  • \(sinA-sinB=2cos\displaystyle\frac{A+B}{2}\)\(sin\displaystyle\frac{A-B}{2}\)
  • \(cosA+cosB=2cos\displaystyle\frac{A+B}{2}\)\(cos\displaystyle\frac{A-B}{2}\)
  • \(cosA-cosB=-2sin\displaystyle\frac{A+B}{2}\)\(sin\displaystyle\frac{A-B}{2}\)

こうして、足し算をかけ算へ変換するために必要な公式を得ることができました。複雑な公式であるため、公式を覚えるのではなく、公式を作れるようになる必要があります。

公式を利用して計算問題を解く

それでは、公式を利用して計算問題を解けるようになりましょう。以下の問題について、値を計算しましょう。

  • \(cos\displaystyle\frac{5π}{12}-cos\displaystyle\frac{π}{12}\)

公式を利用すると、計算は以下のようになります。

\(cos\displaystyle\frac{5π}{12}-cos\displaystyle\frac{π}{12}\)

\(=-2sin\displaystyle\frac{\displaystyle\frac{5π}{12}+\displaystyle\frac{π}{12}}{2}sin\displaystyle\frac{\displaystyle\frac{5π}{12}-\displaystyle\frac{π}{12}}{2}\)

\(=-2sin\displaystyle\frac{π}{4}sin\displaystyle\frac{π}{6}\)

\(=-2·\displaystyle\frac{1}{\sqrt{2}}·\displaystyle\frac{1}{2}\)

\(=-\displaystyle\frac{\sqrt{2}}{2}\)

次に、少し複雑な式を計算しましょう。以下の式の値は何でしょうか。

  • \(sin20°sin40°sin80°\)

以下のように計算します。

\(\color{red}{sin20°sin40°}sin80°\)

\(=-\color{red}{\displaystyle\frac{1}{2}(cos60°-cos20°)}sin80°\)

\(=-\displaystyle\frac{1}{2}\left(\displaystyle\frac{1}{2}-cos20°\right)sin80°\)

\(=-\displaystyle\frac{1}{4}sin80°+\displaystyle\frac{1}{2}sin80°cos20°\)

\(=-\displaystyle\frac{1}{4}sin80°+\displaystyle\frac{1}{4}(sin100°+sin60°)\)

\(=-\displaystyle\frac{1}{4}sin80°+\displaystyle\frac{1}{4}sin(180°-100°)\)\(+\displaystyle\frac{1}{4}·\displaystyle\frac{\sqrt{3}}{2}\)

\(=-\displaystyle\frac{1}{4}sin80°+\displaystyle\frac{1}{4}sin80°+\displaystyle\frac{\sqrt{3}}{8}\)

\(=\displaystyle\frac{\sqrt{3}}{8}\)

こうして、公式を利用することによって答えを得ることができました。

三角関数の和と積の公式を利用する証明問題

証明問題を解くときについても、三角関数の和と積の公式は役に立ちます。それでは△ABCについて、以下の等式が成り立つことを証明しましょう。

  • \(sinA+sinB+sinC\)\(=4cos\displaystyle\frac{A}{2}·cos\displaystyle\frac{B}{2}·cos\displaystyle\frac{C}{2}\)

三角形ではすべての角を足すと\(π\)になります。そのため\(A+B+C=π\)であり、\(C=π-(A+B)\)です。そのため、\(sinC\)を以下のように変換できます。

\(sinC=sin(π-(A+B))\)

\(sinC=sin(A+B)\)

また\(cos\displaystyle\frac{C}{2}\)に\(C=π-(A+B)\)を代入すると、以下のように計算できます。

\(cos\displaystyle\frac{C}{2}\)

\(=cos\left(\displaystyle\frac{π}{2}-\displaystyle\frac{A+B}{2}\right)\)

\(=sin\displaystyle\frac{A+B}{2}\)

そこで、三角関数の和と積の公式や加法定理を利用して計算しましょう。

\(sinA+sinB+sinC\)

\(=\color{red}{sinA+sinB}+sin(A+B)\)

\(=\color{red}{2sin\displaystyle\frac{A+B}{2}cos\displaystyle\frac{A-B}{2}}+sin(A+B)\)

\(=2sin\displaystyle\frac{A+B}{2}cos\displaystyle\frac{A-B}{2}+sin2·\displaystyle\frac{A+B}{2}\)

\(=2sin\displaystyle\frac{A+B}{2}cos\displaystyle\frac{A-B}{2}\)\(+2sin\displaystyle\frac{A+B}{2}cos\displaystyle\frac{A+B}{2}\):2倍角の公式

\(=2sin\displaystyle\frac{A+B}{2}\left(\color{red}{cos\displaystyle\frac{A-B}{2}+cos\displaystyle\frac{A+B}{2}}\right)\)

\(=4sin\displaystyle\frac{A+B}{2}·cos\displaystyle\frac{A}{2}·cos\left(-\displaystyle\frac{B}{2}\right)\)

\(=4cos\displaystyle\frac{A}{2}·cos\displaystyle\frac{B}{2}·cos\displaystyle\frac{C}{2}\)

こうして、証明問題を解くことができました。

公式を用いて三角方程式を解く

三角関数の和と積の公式は三角方程式を解くときにも役立ちます。以下の式について、\(0≦θ≦π\)となるθを求めましょう。

  • \(sinθ+sin2θ+sin3θ+sin4θ=0\)

公式を利用して以下のように計算します。

\(sin4θ+sinθ=2sin\displaystyle\frac{5θ}{2}cos\displaystyle\frac{3θ}{2}\)

\(sin3θ+sin2θ=2sin\displaystyle\frac{5θ}{2}cos\displaystyle\frac{θ}{2}\)

そのため、以下のようになります。

\(sinθ+sin2θ+sin3θ+sin4θ=0\)

\(2sin\displaystyle\frac{5θ}{2}cos\displaystyle\frac{3θ}{2}\)\(+2sin\displaystyle\frac{5θ}{2}cos\displaystyle\frac{θ}{2}\)\(=0\)

\(2sin\displaystyle\frac{5θ}{2}\left(cos\displaystyle\frac{3θ}{2}+cos\displaystyle\frac{θ}{2}\right)=0\)

\(0≦θ≦π\)であるため、\(0≦\displaystyle\frac{5θ}{2}≦\displaystyle\frac{5π}{2}\)です。この範囲で\(sin\displaystyle\frac{5θ}{2}=0\)となるのは、\(\displaystyle\frac{5θ}{2}=0,π,2π\)のときです。つまり、\(θ=0,\displaystyle\frac{2π}{5},\displaystyle\frac{4π}{5}\)です。

・3倍角の公式を利用する

次に、\(cos\displaystyle\frac{3θ}{2}+cos\displaystyle\frac{θ}{2}=0\)を解きましょう。3倍角の公式を利用すると、以下のように変換できます。

  • \(cos\displaystyle\frac{3θ}{2}=4cos^3\displaystyle\frac{θ}{2}-3cos\displaystyle\frac{θ}{2}\)

そこで、以下のように計算しましょう。

\(cos\displaystyle\frac{3θ}{2}+cos\displaystyle\frac{θ}{2}=0\)

\(4cos^3\displaystyle\frac{θ}{2}-3cos\displaystyle\frac{θ}{2}+cos\displaystyle\frac{θ}{2}=0\)

\(4cos^3\displaystyle\frac{θ}{2}-2cos\displaystyle\frac{θ}{2}=0\)

\(cos\displaystyle\frac{θ}{2}\left(2cos^2\displaystyle\frac{θ}{2}-1\right)=0\)

\(cos\displaystyle\frac{θ}{2}\left(\sqrt{2}cos\displaystyle\frac{θ}{2}+1\right)\)\(\left(\sqrt{2}cos\displaystyle\frac{θ}{2}-1\right)\)\(=0\)

\(cos\displaystyle\frac{θ}{2}=0,±\displaystyle\frac{1}{\sqrt{2}}\)

\(0≦θ≦π\)であるため、\(0≦\displaystyle\frac{θ}{2}≦\displaystyle\frac{π}{2}\)です。この範囲で\(cos\displaystyle\frac{θ}{2}=0,±\displaystyle\frac{1}{\sqrt{2}}\)となるのは、\(\displaystyle\frac{θ}{2}=\displaystyle\frac{π}{4},\displaystyle\frac{π}{2}\)のときです。つまり、\(θ=\displaystyle\frac{π}{2},π\)です。

すべての結果を合わせると、\(θ=0,\displaystyle\frac{2π}{5},\displaystyle\frac{π}{2},\displaystyle\frac{4π}{5},π\)が答えです。こうして、答えを得ることができました。

三角関数で足し算をかけ算に、かけ算を足し算に変える

複雑な公式の一つが三角関数の和と積の公式です。足し算をかけ算に変えたり、かけ算を足し算に変えたりすることができます。複雑な公式であるため、覚えるのではなく、加法定理を利用して公式を作れるようになりましょう。

三角関数で足し算やかけ算をするとき、公式を利用できないかどうかを考えましょう。2倍角や3倍角が存在しても、三角関数の和と積の公式を利用することによって解ける問題は多いです。

三角関数では加法定理に加えて、2倍角の公式や3倍角の公式、半角の公式、三角関数の和と積の公式があります。これらをすべて使いこなせる必要があります。

計算内容は複雑であり、計算問題を解くのは難しいです。ただ三角関数の和と積の公式を使いこなせるようになれば、三角関数の計算は得意といえます。そこで公式を作れるようになり、公式を利用して計算できるようになりましょう。