三角関数で学ぶ内容に加法定理があります。角度を足したり引いたりするとき、加法定理を利用すればsinθやcosθ、tanθの値を計算できます。加法定理を利用することにより、例えば\(sin15°\)の値を得られるようになります。

なお、加法定理は2直線のなす角を計算するときにも有効です。この場合、tanθを用いて計算します。

また、加法定理を応用することで2倍角の公式や半角の公式、3倍角の公式を得ることができます。これらの公式を覚えるのではなく、加法定理を用いて公式を導出できるようになりましょう。すべての公式を覚えるのは効率的ではありません。

それでは、どのように加法定理を用いて計算すればいいのでしょうか。また、どのように公式を作ればいいのでしょうか。加法定理を用いて計算問題を解く方法を解説していきます。

加法定理による公式と計算方法

まず、加法定理の公式を覚えるようにしましょう。加法定理を証明することはできますが、毎回証明するのは現実的ではないため、公式を暗記するのです。覚えるべき公式は以下の2つです。

  • \(sin(α±β)=sinαcosβ±cosαsinβ\)
  • \(cos(α±β)=cosαcosβ∓sinαsinβ\)

これらの公式は必ず覚えましょう。

tanθに関する加法定理の公式は作ることができます。以下のように、\(sin(α±β)\)と
\(cos(α±β)\)を利用して式を作りましょう。

\(tan(α±β)=\displaystyle\frac{sin(α±β)}{cos(α±β)}\)

\(tan(α±β)=\displaystyle\frac{sinαcosβ±cosαsinβ}{cosαcosβ∓sinαsinβ}\)

次に、分子と分母を\(cosαcosβ\)で割りましょう。そうすると、以下の公式を得ることができます。

  • \(tan(α±β)=\displaystyle\frac{tanα±tanβ}{1∓tanαtanβ}\)

\(tan(α±β)\)の加法定理を覚える必要はありません。公式を作れることが重要です。

・加法定理を用いて計算する

それでは、加法定理を用いて計算してみましょう。以下の値は何でしょうか。

  • \(sin15°\)

次のように計算しましょう。

\(sin15°=sin(45°-30°)\)

\(=sin45°cos30°-cos45°sin30°\)

\(=\displaystyle\frac{1}{\sqrt{2}}·\displaystyle\frac{\sqrt{3}}{2}-\displaystyle\frac{1}{\sqrt{2}}·\displaystyle\frac{1}{2}\)

\(=\displaystyle\frac{\sqrt{3}-1}{2\sqrt{2}}\)

\(=\displaystyle\frac{\sqrt{6}-\sqrt{2}}{4}\)

こうして、加法定理を利用することによって値を得ることができました。

加法定理の証明:距離の公式と余弦定理

それでは、加法定理の証明をしてみましょう。必ず理解しなければいけない内容ではなく、読み飛ばしても問題ありません。ただ知識として知っていると、どのように公式を導き出せるのか知ることができるため、数学をより深く学べます。

加法定理の証明では、\(cos(α+β)\)からスタートします。以下の図形を利用しましょう。

距離の公式を利用して、直線ABの距離の二乗は以下のように計算できます。

\(AB^2=(cosα-cosβ)^2+(sinα-sinβ)^2\)

\(=cos^2α-2cosαcosβ+cos^2β\)\(+sin^2α\)\(-2sinαsinβ\)\(+sin^2β\)

\(=2-2(cosαcosβ+sinαsinβ)\) – ①

次に、余弦定理を利用して以下の計算をしましょう。

\(AB^2=OA^2+OB^2-2OA·OC\)\(·cos(α-β)\)

\(=1^2+1^2-2·1·1·cos(α-β)\)

\(=2-2cos(α-β)\) – ②

①と②より、以下のように計算しましょう。

\(2-2(cosαcosβ+sinαsinβ)\)\(=2-2cos(α-β)\)

\(cos(α-β)=cosαcosβ+sinαsinβ\)

また\(β\)を\(-β\)に置き換えると、以下のようになります。

  • \(cos(α+β)=cosαcosβ-sinαsinβ\)

こうして、cosθに関する加法定理の証明をすることができました。

なお、cosθでは角度が\(\displaystyle\frac{π}{2}\)(90°)変化すると、cosθはsinθになります。そこで\(α\)を\(\displaystyle\frac{π}{2}-α\)に置き換えましょう。

\(cos\left(\displaystyle\frac{π}{2}-α+β\right)\)\(=cos\left(\displaystyle\frac{π}{2}-α\right)cosβ\)\(-sin\left(\displaystyle\frac{π}{2}-α\right)sinβ\)

\(cos\left(\displaystyle\frac{π}{2}-(α-β)\right)\)\(=cos\left(\displaystyle\frac{π}{2}-α\right)cosβ\)\(-sin\left(\displaystyle\frac{π}{2}-α\right)sinβ\)

\(sin(α-β)=sinαcosβ-cosαsinβ\)

また先ほどと同様に\(β\)を\(-β\)に置き換えると、以下のようになります。

  • \(sin(α+β)=sinαcosβ+cosαsinβ\)

こうして、三角関数の性質を利用することでsinθについても加法定理の証明をすることができました。

三角関数の値を加法定理を用いて計算する

それでは、加法定理を用いて三角関数の計算をしましょう。以下の問題の答えは何でしょうか。

  • \(sinα=\displaystyle\frac{4}{5}\)、\(cosβ=\displaystyle\frac{5}{13}\)のとき、\(cos(α-β)\)の値を求めましょう。なお、\(0<α<\displaystyle\frac{π}{2}\)、\(0<β<\displaystyle\frac{π}{2}\)です。

\(cos(α-β)\)の値を計算する必要があるため、加法定理を利用しましょう。ただ加法定理を利用するためには、\(sinβ\)と\(cosα\)の値を知る必要があります。そこで\(sin^2θ+cos^2θ=1\)を利用して、それぞれの値を計算しましょう。

\(0<α<\displaystyle\frac{π}{2}\)より、\(cosα>0\)です。また\(0<β<\displaystyle\frac{π}{2}\)より、\(sinβ>0\)です。次に、公式を利用して以下のように計算します。

・\(cosα\)の計算

\(sin^2α+cos^2α=1\)

\(cosα=\sqrt{1-sin^2α}\)

\(cosα=\displaystyle\frac{3}{5}\)

・\(sinβ\)の計算

\(sin^2β+cos^2β=1\)

\(sinβ=\sqrt{1-cos^2β}\)

\(sinβ=\displaystyle\frac{12}{13}\)

そこで、加法定理を用いて計算しましょう。

\(cos(α-β)=cosαcosβ+sinαsinβ\)

\(cos(α-β)=\displaystyle\frac{3}{5}·\displaystyle\frac{5}{13}+\displaystyle\frac{4}{5}·\displaystyle\frac{12}{13}\)

\(cos(α-β)=\displaystyle\frac{63}{65}\)

こうして、加法定理を利用して計算することができました。

2直線のなす角とtanの利用

2つの角度を利用して計算するとき、加法定理が役立ちます。そこで、加法定理を用いて2直線のなす角を計算してみましょう。

  • 2直線\(x-2y+2=0\)と\(3x-y-3=0\)のなす角を求めましょう。なお、なす角は鋭角です。

2つの直線を変形すると以下のようになります。

  • \(y=\displaystyle\frac{1}{2}x+1\)
  • \(y=3x-3\)

下図のように角度を\(α\)、\(β\)とすると、\(tanα\)は直線\(y=3x-3\)の傾きであり、\(tanβ\)は直線\(y=\displaystyle\frac{1}{2}x+1\)の傾きです。そこで\(tanα=3\)、\(tanβ=\displaystyle\frac{1}{2}\)を利用して計算しましょう。

加法定理を利用すると以下のように計算できます。

\(tan(α-β)=\displaystyle\frac{tanα-tanβ}{1+tanαtanβ}\)

\(=\displaystyle\frac{3-\displaystyle\frac{1}{2}}{1+3·\displaystyle\frac{1}{2}}\)

\(=1\)

\(tan(α-β)=1\)であるため、2直線のなす角は\(\displaystyle\frac{π}{4}\)です。

2倍角の公式を加法定理を用いて得る

なお、加法定理の応用として2倍角の公式や半角の公式、3倍角の公式があります。これらの公式を覚えてはいけません。加法定理を利用することにより、2倍角の公式や半角の公式、3倍角の公式を作れるようになりましょう。

角度を倍にするとき、得られる値を計算するための公式が2倍角の公式です。角度を\(α\)とすると、以下が2倍角の公式になります。

  • \(sin2α=2sinαcosα\)
  • \(cos2α=cos^2α-sin^2α\)\(=1-2sin^2α\)\(=2cos^2α-1\)
  • \(tan2α=\displaystyle\frac{2tanα}{1-tan^2α}\)

加法定理で\(β\)を\(α\)に変えれば、2倍角の公式を容易に作ることができます。これが、2倍角の公式を覚えてはいけない理由です。例えば\(sin2α\)の公式を以下のように導出できます。

\(sin(α+α)=sinαcosα+cosαsinα\)

\(sin2α=2sinαcosα\)

\(cosα\)と\(tanα\)についても、同様に公式を作れます。なお、\(sin^2α+cos^2α=1\)であるため、この公式を利用して\(cos2α=cos^2α-sin^2α\)を変形しましょう。そうすれば、ほかの公式を得ることができます。

半角の公式と計算方法

角度を半分にするとき、半角の公式を利用しましょう。倍角の公式を利用することにより、半角の公式を得られます。倍角の公式より、以下のようになります。

  • \(sin^2α=\displaystyle\frac{1-cos2α}{2}\)
  • \(cos^2α=\displaystyle\frac{1+cos2α}{2}\)
  • \(tan^2α=\displaystyle\frac{1-cos2α}{1+cos2α}\)

\(tan^2α=\displaystyle\frac{sin^2α}{cos^2α}\)であるため、値を代入すると上記のようになります。次に、\(α=\displaystyle\frac{θ}{2}\)としましょう。そうすると、以下の公式を導出できます。

  • \(sin^2\displaystyle\frac{θ}{2}=\displaystyle\frac{1-cosθ}{2}\)
  • \(cos^2\displaystyle\frac{θ}{2}=\displaystyle\frac{1+cosθ}{2}\)
  • \(tan^2\displaystyle\frac{θ}{2}=\displaystyle\frac{1-cosθ}{1+cosθ}\)

こうして、半角の公式を得ることができました。

・公式を利用して計算する

それでは、以下の問題を解いてみましょう。

  • \(\displaystyle\frac{π}{2}<θ<π\)、\(sinθ=\displaystyle\frac{4}{5}\)のとき、\(sin2θ\)、\(cos2θ\)、\(tan\displaystyle\frac{θ}{2}\)の値を求めましょう。

\(sin^2θ+cos^2θ=1\)、\(\displaystyle\frac{π}{2}<θ<π\)であるため、以下のようにcosθを計算できます。

\(cos^2θ=1-sin^2θ\)

\(cos^2θ=\displaystyle\frac{9}{25}\)

\(cosθ=-\displaystyle\frac{3}{5}\)

次に、加法定理を用いて計算しましょう。

・\(sin2θ\)の計算

\(sin2α=2sinαcosα\)

\(sin2α=2·\displaystyle\frac{4}{5}·-\displaystyle\frac{3}{5}\)

\(sin2α=-\displaystyle\frac{24}{25}\)

・\(cos2θ\)の計算

\(cos2θ=1-2sin^2θ\)

\(cos2θ=1-2·\left(\displaystyle\frac{4}{5}\right)^2\)

\(cos2θ=-\displaystyle\frac{7}{25}\)

・\(tan\displaystyle\frac{θ}{2}\)の計算

\(tan^2\displaystyle\frac{θ}{2}=\displaystyle\frac{1-cosθ}{1+cosθ}\)

\(tan^2\displaystyle\frac{θ}{2}=\displaystyle\frac{1-\left(-\displaystyle\frac{3}{5}\right)}{1+\left(-\displaystyle\frac{3}{5}\right)}\)

\(tan^2\displaystyle\frac{θ}{2}=4\)

\(\displaystyle\frac{π}{2}<θ<π\)であるため、\(\displaystyle\frac{π}{4}<\displaystyle\frac{θ}{2}<\displaystyle\frac{π}{2}\)です。つまり、\(tan\displaystyle\frac{θ}{2}>0\)です。そのため、\(tan\displaystyle\frac{θ}{2}=2\)です。

3倍角の公式を導出する

次に3倍角の公式を学びましょう。以下が3倍角の公式になります。

  • \(sin3α=3sinα-4sin^3α\)
  • \(cos3α=-3cosα+4cos^3α\)

3倍角の公式についても覚えてはいけません。公式を導出できるようになりましょう。\(3α=2α+α\)と考え、加法定理と2倍角の公式を利用して式を変形するのです。

・\(sin3α=3sinα-4sin^3α\)の導出

\(sin(2α+α)=sin2αcosα+cos2αsinα\)

\(=2sinαcos^2α\)\(+(1-2sin^2α)sinα\)

\(=2sinα(1-sin^2α)\)\(+(1-2sin^2α)sinα\)

\(=3sinα-4sin^3α\)

・\(cos3α=-3cosα+4cos^3α\)の導出

\(cos(2α+α)=cos2αcosα-sin2αsinα\)

\(=(2cos^2α-1)cosα\)\(-2sin^2αcosα\)

\(=(2cos^2α-1)cosα\)\(-2(1-cos^2α)cosα\)

\(=-3cosα+4cos^3α\)

こうして、3倍角の公式を導出できました。それでは、3倍角の公式を利用して問題を解けるようになりましょう。以下の問題の答えは何でしょうか。

  • \(sin3θ=sinθ\)を満たすθについて、\(0≦θ<2π\)の範囲で求めましょう。

3倍角の公式を利用して以下のように計算しましょう。

\(sin3θ=sinθ\)

\(3sinθ-4sin^3θ=sinθ\)

\(4sin^3θ-2sinθ=0\)

\(sin^3θ-\displaystyle\frac{1}{2}sinθ=0\)

\(sinθ\left(sin^2θ-\displaystyle\frac{1}{2}\right)=0\)

\(sinθ\left(sinθ+\displaystyle\frac{1}{\sqrt{2}}\right)\left(sinθ-\displaystyle\frac{1}{\sqrt{2}}\right)=0\)

\(sinθ=0,±\displaystyle\frac{1}{\sqrt{2}}\)

\(0≦θ<2π\)では、\(θ=0,\displaystyle\frac{π}{4},\displaystyle\frac{3π}{4},π,\displaystyle\frac{5π}{4},\displaystyle\frac{7π}{4}\)が答えです。加法定理を利用して、3倍角の公式についても利用できるようになりましょう。

加法定理を覚え、公式を導出できるようにする

角度を足したり引いたりするとき、加法定理が役に立ちます。15°や75°などの角度であっても、加法定理を利用すれば計算できます。そこで、加法定理では\(sin(α+β)\)と\(cos(α+β)\)を必ず覚えるようにしましょう。

なお、加法定理では\(tan(α+β)\)を学びます。また加法定理の応用として、2倍角の公式や半角の公式、3倍角の公式を学びます。これらの公式を覚えるのではなく、公式を導出できるようになりましょう。加法定理に関わるすべての公式を覚えるのは大変であり、現実的ではありません。

公式を覚えなくても、公式を導出できるようになれば、\(tan(α+β)\)を利用することで2直線のなす角を計算できます。また、角度を2倍や3倍に変換するときの計算が可能です。

加法定理では多くの公式を学ぶことになるため、これらの公式をできるだけ覚えずに計算できるようになる必要があります。そこで加法定理をどのように変形し、計算問題を解けばいいのか理解しましょう。