等式の証明よりも難しい証明問題が不等式の証明です。不等式の証明をするとき、大小関係を利用したり、累乗を利用したりする必要があります。不等式の性質を理解して、不等式の証明をしなければいけません。
なお不等式の証明では、式に絶対値を含むケースがあります。そこで、絶対値が存在する場合であっても不等式が成り立つことを証明できるようになりましょう。
また不等式が関わる証明問題では、相加平均と相乗平均も利用されます。相加平均と相乗平均の関係は公式として覚える必要があります。また、相加平均と相乗平均を利用することによって最大値または最小値を得ることもできます。
それでは、どのように不等式の証明をすればいいのでしょうか。不等式の証明をする方法を解説していきます。
もくじ
大小関係がある場合の不等式の証明
不等式が成り立つことを証明したいとき、最も一般的な方法として、引き算をする証明方法があります。例えば、\(A>B\)を証明するにはどうすればいいでしょうか。もし\(A-B>0\)であるとわかれば、不等式が成り立つとわかります。
実際に証明問題を解くと、不等式の証明方法を理解できるようになります。以下の問題の答えは何でしょうか。
- \(a>1\)、\(b>1\)のとき、\(ab+1>a+b\)を証明しましょう。
大小関係を利用して証明すればいいため、引き算を利用して0よりも大きいことを確認しましょう。以下のように計算します。
\(ab+1-a-b\)
\(=a(b-1)-(b-1)\)
\(=(a-1)(b-1)\)
\(a>1\)、\(b>1\)であるため、\((a-1)(b-1)>0\)です。そのため、\(ab+1>a+b\)と証明できました。大小関係を利用できる場合、引き算によって証明しましょう。
累乗を利用して証明する
ただ場合によっては、大小関係を利用しても不等式を証明できないケースがあります。この場合、累乗を利用することで不等式の証明をしましょう。実数を二乗する場合、必ず値は正になります。この性質を利用して不等式の証明をするのです。
それでは、以下の不等式を証明しましょう。
- \(x^2+16y^2+1>8xy\)
方針として、引き算を利用するのは同じです。それに加えて、因数分解することによって二乗の式を作りましょう。以下のようになります。
\((x^2+16y^2+1)-8xy\)
\(=x^2-8xy+16y^2+1\)
\(=(x-4y)^2+1>0\)
二乗する場合、必ず値はゼロ以上になります。そのため、\(x^2+16y^2+1>8xy\)であると証明できました。
平方の差を利用して証明する
ここまで、整数に関する不等式の証明問題を解いてきました。それでは、平方根などの無理数を含む場合はどのように証明すればいいのでしょうか。
二乗すると、平方根を取り去ることができます。また二乗しても大小関係は変化しません。例えば\(a>b\)の場合、\(a^2>b^2\)です。この性質を利用して不等式を証明しましょう。具体的には、式を二乗した後に引き算をするのです。
それでは\(a>0\)かつ\(b>0\)のとき、以下の式が成り立つことを証明しましょう。
- \(\sqrt{a}+\sqrt{b}>\sqrt{a+b}\)
この不等式が成り立つ場合、両辺を二乗しても成り立ちます。また、大小関係(引き算)を利用することで不等式を証明しましょう。以下のように計算します。
\((\sqrt{a}+\sqrt{b})^2-\sqrt{a+b}^2\)
\(=(a+2\sqrt{ab}+b)-(a+b)\)
\(=2\sqrt{ab}>0\)
左辺から右辺を引くと0より大きいことがわかったため、不等式が成り立つと証明できました。
絶対値と不等式の証明問題
次に、絶対値を含む不等式の証明問題を解けるようになりましょう。場合分けをすることで証明することはできますが、式に含まれる絶対値が多い場合、場合分けは良いアイディアではありません。そこで、ほかの方法によって不等式の証明をしましょう。
絶対値を含む不等式の証明では、事前に理解しなければいけない内容が2つあります。まず、\(|A|≧A\)となることを理解しましょう。Aが正の値であれば\(|A|=A\)です。またAが負の値であれば、\(|A|>A\)です。そのため、\(|A|≧A\)です。
また二乗すると必ず正の値になるため、\(|A|^2=A^2\)です。基本的な内容ではありますが、これらの内容を理解して、絶対値を含む不等式の証明をする必要があります。それでは、次の式が成り立つことを証明しましょう。
- \(|a|+|b|≧|a+b|\)
引き算だけでは証明できないため、累乗した後に引き算をしましょう。また、先ほど解説した絶対値の性質を利用します。そうすると、以下のように計算できます。
\((|a|+|b|)^2-|a+b|^2\)
\(=(a^2+2|a||b|+b^2)-(a+b)^2\)
\(=(a^2+2|a||b|+b^2)\)\(-(a^2+2ab+b^2)\)
\(=2|a||b|-2ab≧0\)
こうして、左辺の二乗から右辺の二乗を引くことにより、0以上になるとわかりました。そのため、\(|a|+|b|≧|a+b|\)となります。
相加平均と相乗平均の大小関係と証明
なお不等式の証明に関する内容に相加平均と相乗平均の大小関係があります。以下が相加平均と相乗平均です。
- 相加平均:\(\displaystyle\frac{a+b}{2}\)
- 相乗平均:\(\sqrt{ab}\)
また\(a\)と\(b\)の両方とも正の数である場合、以下の関係が成り立ちます。
- \(\displaystyle\frac{a+b}{2}≧\sqrt{ab}\)
証明方法は簡単であり、二乗した後に引き算をしましょう。\(\displaystyle\frac{a+b}{2}≧\sqrt{ab}\)より、\(a+b≧2\sqrt{ab}\)と考え、以下のように計算します。
\((a+b)^2-(2\sqrt{ab})^2\)
\(=(a^2+2ab+b^2)-4ab\)
\(=a^2-2ab+b^2\)
\(=(a-b)^2≧0\)
こうして、相加平均と相乗平均の大小関係が成り立つとわかります。なお、\(\displaystyle\frac{a+b}{2}=\sqrt{ab}\)となるのは\(a=b\)のときです。
ちなみに、相加平均と相乗平均の大小関係の公式について、\(a+b≧2\sqrt{ab}\)と覚えても問題ありません。
相加平均と相乗平均を利用して証明する
それでは、どのようなときに相加平均と相乗平均の大小関係を利用すればいいのでしょうか。逆数の関係になっている場合、相加平均と相乗平均の大小関係を利用できないか確認しましょう。例えば\(x\)と\(\displaystyle\frac{1}{x}\)は逆数の関係です。逆数であれば、相乗平均の計算が簡単です。
それでは、相加平均と相乗平均の大小関係を利用して式の証明をしてみましょう。\(a>0\)のとき、以下の関係が成り立つことを証明しましょう。
- \(3a+\displaystyle\frac{2}{a}≧2\sqrt{6}\)
相加平均を相乗平均へ変換すると以下のようになります。
\(3a+\displaystyle\frac{2}{a}\)
\(≧2\sqrt{3a×\displaystyle\frac{2}{a}}\)
\(=2\sqrt{6}\)
こうして、\(3a+\displaystyle\frac{2}{a}≧2\sqrt{6}\)であると証明できました。
相加平均・相乗平均を利用して最大値または最小値を得る
なお相加平均と相乗平均を利用する場合、不等式の証明をするだけでなく、最大値または最小値を得ることができます。
例えば先ほど、\(3a+\displaystyle\frac{2}{a}≧2\sqrt{6}\)の関係を証明しました。これはつまり、\(a>0\)のとき、最小値は\(2\sqrt{6}\)であることを意味します。
なお、2ヵ所以上で相加平均を相乗平均へ変換する場合は注意しましょう。実際の答えとは異なるケースがあるからです。それでは\(a>0\)、\(b>0\)のとき、以下の式の最小値を求めましょう。
- \(\left(a+\displaystyle\frac{4}{b}\right)\left(b+\displaystyle\frac{1}{a}\right)\)
それぞれのかっこに対して、相加平均と相乗平均の大小関係を適用すると以下のように計算できます。
\(\left(a+\displaystyle\frac{4}{b}\right)\left(b+\displaystyle\frac{1}{a}\right)\)
\(≧2\sqrt{a×\displaystyle\frac{4}{b}}×2\sqrt{b×\displaystyle\frac{1}{a}}\)
\(=8\)
ただ、答えは8ではありません。この計算の何が間違っているのでしょうか。一つ目のかっこ内が最小値になるのは\(a=\displaystyle\frac{4}{b}\)のときです。つまり、\(ab=4\)のときに最小値となります。
また二つ目のかっこ内が最小値になるためには、\(b=\displaystyle\frac{1}{a}\)のときです。つまり、\(ab=1\)のときに最小値になります。
しかし、\(ab=4\)と\(ab=1\)を同時に満たすことはできません。そのため、最小値が8になることはないのです。そこで、先ほどの式を展開した後に相加平均を相乗平均に変換しましょう。以下のように計算します。
\(\left(a+\displaystyle\frac{4}{b}\right)\left(b+\displaystyle\frac{1}{a}\right)\)
\(=ab+1+4+\displaystyle\frac{4}{ab}\)
\(=ab+\displaystyle\frac{4}{ab}+5\)
そこで、この式に対して相加平均と相乗平均の大小関係を利用しましょう。
\(ab+\displaystyle\frac{4}{ab}+5\)
\(≧2\sqrt{ab×\displaystyle\frac{4}{ab}}+5\)
\(=9\)
こうして、最小値は9になるとわかります。また、\(ab=\displaystyle\frac{4}{ab}\)のとき、最小値になります。そこで、以下のように計算しましょう。
\(ab=\displaystyle\frac{4}{ab}\)
\((ab)^2=4\)
\(ab=2\)
つまり\(ab=2\)のとき、最初値9となります。また相加平均を相乗平均へ変更する場所は一つであるため、答えが矛盾することはありません。
相加平均と相乗平均の大小関係では、等号が成立するための条件があります。この条件と合致する必要があるため、2ヵ所で相加平均を相乗平均へ変換する場合は等号成立の条件を満たしているかどうかを確認しましょう。
不等式の証明問題を解く
数学では証明問題が出題されることがあります。不等式の証明では大小関係を利用したり、式を二乗したりすることによって不等式の証明をしましょう。
なお不等式を含む式には、絶対値を含むケースがあります。基本的な内容ではあっても、絶対値のかけ算や二乗をするとき、どのように値が変化するのか把握しましょう。
また不等式の証明で重要な内容が相加平均と相乗平均の大小関係です。この関係は公式として覚える必要があります。逆数が式の中に存在する場合、相加平均を相乗平均へ変換することで不等式の証明をしたり、最大値または最小値を得たりできます。
等式の証明に比べて、不等式の証明は複雑です。そこで不等式の証明をする方法を学び、大小関係や二乗、相加平均・相乗平均を利用して問題を解けるようになりましょう。